斧屋のパフェ論

過去にインタビューズで書いたパフェ論を転載しておきます。
http://theinterviews.jp/onoyax/
画像がきれいじゃなくてすみません。




Q.安くて美味しいパフェが食べたいです。



A.「パフェ道三則」と呼ばれるものがあります。以下に記します。

1.空きっ腹に食うべからず
2.創り手の意図を考えよ
3.時間と金をかけよ


分かりますか?
「安くて美味しいパフェ」を食べたいというのは愚の骨頂です。
そもそも、主体と離れて、客体としての「美味しいパフェ」が存在するなどと思ってはいけません。
お金と時間をかけ、それ相応の空間にて食す。そのパフェ体験が総体として「美味しい」のです。主体と客体が綯い交ぜになる至高の体験、それこそがパフェ体験です。言ってしまえば、あなた自身がパフェにならなければならない。


それでも愚かな問いを続けたいなら、よろしい。目黒果実園に行くがよい。
1000円以内で、極上のパフェが食べられるでしょう。

※なお、「パフェ道〜則」はさらに増えていく可能性があります。
(2011-9-20)

※2013年現在、パフェ道三則は三則のままですね。







Q.コンビニのパフェはパフェのヒエラルキーで言うとどのへんですか?




A.そもそも、コンビニのパフェを食べたことがありません。
なかなか、パフェって名のつく商品、売ってないですよね。
あったとしても、なかなかパフェの重要な役割を果たすアイスが入っていなかったり、一般的なパフェと比べて量的に物足りなかったりということがありますね。


唯一パフェ的なものを食べたのは、ローソンの「山形県佐藤錦のヴェリーヌ」ですが、これは差し入れとしていただいたものです。 
「パフェ道三則」を思い出してほしいのですが、「時間と金をかけよ」という教えがあるので、自ら買おうとはあまり思いません。
また、重要なことですが、コンビニで買うパフェは、基本的に家に帰って、またはどこか任意の場所で食べるということになります。食べるための場所が設定されているわけではない。
ここにおいて明らかになることは、コンビニのパフェを食べる行為は、「在宅派(書斎派)」という在り方だということです。一方、作られたその場で食べることのできるパフェは「現場(派)」ということになります。
こう考えれば、コンビニのパフェをパフェのヒエラルキーに配置することの問題点が明らかになるかもしれません。これはアイドルファンの長きによる論争、「在宅派」と「現場派」の対立に他ならないからです。したがって、平和的解決を望むならば、コンビニのパフェはコンビニのパフェで尊重し、ヒエラルキーではなく横に並べて優劣をつけずに区別をするべきです。
しかし、自分はパフェについては現場至上主義を採りたい。したがって、現場でしかできないパフェ体験を称揚します。その点で言えば、コンビニのパフェはヒエラルキーの最下層です。
(2011-10-04)

※これ以降、コンビニのパフェはいくつか食べました。なかなかこれというパフェには出会えていませんが。





Q.パフェの一番下にあるべきものは何でしょうか?



A.なかなかよい視点ですね。パフェ道三則にはありませんが、パフェは第3層が重要である、という考え方があります。
第3層とは、パフェを上から下への3層構造で捉えた時に、最下層となる部分のことです。


とはいえ、この質問はいささか茫漠としています。
いわば、アイドルライブのセットリストの終盤はどのような曲がよいか、と問うているわけですが、そんなものはアイドルによって違うわけです。
当然、パフェにおいても、どんなパフェかによって、あるいは他層との関係において、第3層のよさも決まってくるわけです。


では、フルーツ系のパフェについて見てみましょう。
フルーツ系のパフェであれば、第3層にも果実が入っているべきです。これはけっこう重要なことで、普通の喫茶店のパフェでは、大抵目に見える第1層にフルーツが盛られていて、中に掘り進めるとコーンフレークしかない、ということになりがちです。確かに見た目の華やかさでさしあたっての「パフェ感」を演出したければ、第1層によい素材を投入すべきかもしれません。しかしそれは、とりあえず可愛い子を集めてみたけれど、それを支えるシステムやスタッフがどうしようもない、というようなアイドルと同じです。ひとくちめ、ふたくちめはおいしくても、深く味わおうとすれば、その浅さに気づくでしょう。
フルーツパフェの構造で好ましいのは、(定番の構造ですが)第1層と第3層に果実、間の第2層を冷たいアイス・シャーベットを配置すること。そうすれば、果実のおいしさを最後まで舌が知覚したままパフェ体験を終えることができます。当然のことですが、かきまぜて食べない限り、第3層を我々は最後に食べることになるわけです。フルーツパフェを名乗るならば、フィナーレは果実でなければならない。
もちろん、一方でフルーツをさまざまな形態において提供するのがフルーツパフェの面白さであることも認めます。果実(さまざまなフルーツカットの技術も楽しみたい)、シャーベット、アイス、ゼリー、ソース、ジュース。とは言え、やはり最後はフルーツの身体そのものを楽しみたいというのが自分の考えです。


他のパフェにおいても言えることは、そのパフェのアイデンティティ、コンセプトというものを、第3層の最後まで表現しきっているかということにつきます。パフェが芸術として現れるか、それとも商品という経済の論理として現れるかで、我々のパフェ体験は変わってくるのです。
たとえば、パフェ第2層において、コーンフレークの分量が多くて、「ああこれは予算の都合でコーンフレークでかさを増しているのだな」という思いに至った時、それはよきパフェ体験とは言えません。「なるほど、アイスでいったん舌をリセットさせて、その後でさらにメロン果実で来るか!」というように、作り手の理念、意図が伝わってくるパフェは最高です。そこには、「予算の都合」を感じさせない熱量があるはずです。このパフェは何円だからこのくらいか、というような相対的評価ではなく、ただうまい、という絶対的評価を与えられるパフェが理想です。(よいアイドル体験もそうでしょう。すばらしいライブのあとで、このライブは何円だから元は取れたな、などと誰が思うでしょうか。)
というわけで、第3層はパフェのコンセプトに合ったものを、気を抜かずに、手を抜かずに配置してほしいというのが私の思いです。
(2011-10-07)





Q.「パフェ」と「パフェではないもの」の境界はどこにあるのでしょう?あるいは両者の間の境界をどのように考えればよいでしょうか?




A.またそういうめんどくさいことを… と言いつつ、それに関してははてなで少し書きましたね。http://d.hatena.ne.jp/onoya/20110411/1302500314


パフェは基本的には売られる物ですから、売る側がパフェと命名してしまえばパフェです。しかしながら、人々のパフェ観とあまりにも乖離していると、それはパフェとは見なされないでしょう。これについてはやはりアイドルと同じように考えることができます。誰しもアイドルを名乗れますが、すべてがアイドル視されるとは限らないのです。だから、当然パフェの作り手は、我々のイメージする一般的パフェらしさを踏まえて、パフェを作り、パフェを名づけるでしょう。
パフェらしさはアイドルほど時代の制約を受けていないかもしれません。パフェと言えば、背の高いグラスにアイスやフルーツなど、甘い具を入れたものといったイメージがある程度人々に固定化されているでしょう。(しかし実は、ネットで調べてもパフェの歴史が全く分からない。フランスのパルフェが由来とは言え、日本特有の文化として発達したパフェの来歴を精査する必要があるでしょう。)
もちろん、パフェに絶対条件があるわけではありません。高いグラスに入っていなくてもよいし、アイスが入っていなくてもよい。それでも、それが持つ諸要素を総合的に判断した時に、その対象にパフェという名を充てることが妥当だと(あるいは少なくとも不適切だとは言えない程度には関係があると)考えられればよいのです。いわば、パフェらしいパフェが中心になんとなくあって、そこから周辺へと「パフェ度」がグラデーションを成すようにパフェという領域が広がっているのです。ですから、特にその領域の外縁では、そこにある対象に「パフェ」と名づけてもよいし、何か他のデザートの名を充ててもよいような、グレーゾーンが当然存在することでしょう。その点では、「パフェ」と「パフェでないもの」の境界は曖昧なものですし、ある対象にパフェと名づけることによってパフェたらしめることも場合によってはできるでしょう。そして、「とんかつパフェ」などキワモノが出てくるたびに、その境界らしきものは撹乱され、時々刻々パフェ領域は変化するのです。
(以上のような定義問題は、パフェのみならず、人々に愛好される料理(たとえばラーメン)にも言えるでしょうし、「アイドル」や「ロック」、「アート」といった文化的な事象一般にも拡張できる問題です。)

要するに、パフェ道は「パフェとは何か」を日々問い続ける旅でもあるのです。
(2011-10-10)





Q.専門店のパフェ、ファミレスのパフェ、喫茶店のパフェなどのそれぞれでチェックするポイントや楽しみ方はどのように違いますか?




A.これは…興味深い質問ですね。

この3つの分け方は自分の感覚と合います。
専門店のパフェの場合、お店の内装から食器といった、全体の雰囲気も含めた総体としてのパフェ体験を重視します。(自分の服装がそこにふさわしいかどうかという問題はありますが…)
専門店の場合、値段も高い場合が多く、こちらの要求水準も高くなります。1500円以上するパフェであれば、それなりの質と新鮮味とを求めたくなります。期待が大きい分、失望することもありますね。
果実園(目黒と東京駅にあるお店)では、お水の中に輪切りのレモンが入っていて、パフェを食べながら、その途中途中で飲むと、レモンの酸味・苦味が、パフェの甘味に慣れてしまった舌をリセットしてくれるという効果があります。その結果、甘味にあふれたパフェも最後まで飽きることなく完食できるのです。こういった心遣いがパフェの一流店たる所以です。
よいパフェ体験は、時間を忘れさせてくれるほどです。ひたすらその陶酔を楽しみます。


ファミレスのパフェは1000円未満、予算に見合った材料、誰でも作れることといった制約の下で提供されるものですから、あまり期待度が高いものではありません。ただそれでももしファミレスでパフェを頼む場合は、季節ものを頼むことが多いです。
どうしても予算の都合上、パフェの下層に手を抜かれる場合が多いのですが、それでも安さを感じさせないパフェに出会えると感動します。具体的には、秋にジョナサンで食べた「キャラメルとさつまいものパフェ」(567円)、冬にラケルで食べた「イチゴミルフィーユパフェ」(714円)は秀逸でした。


最後に喫茶店です。ここで言う喫茶店は、特にフルーツ等に強みを持っていない普通の喫茶店を指すことにします。こういった喫茶店はほとんど期待できないと言ってよいです。もちろんパフェというのははっきり「まずい」という場合はほとんどなく、どれもそれなりに食べられるものではありますが、バナナにチョコソースに生クリーム、その下に大量のコーンフレークが入っているというような定番のチョコレートパフェや、また生クリームの上にさくらんぼが乗っていて、他に缶詰から取り出したようなみかん等の果実を配し、生クリームに緑色のメロンソースみたいのがかかった定番のフルーツパフェをあえてお金を払って食べる気にはなりません。
とは言え、まれにオリジナリティにあふれたパフェを出すところもあるので、そういったお店探しを怠るわけにはいきませんね。
(2012-03-27)