日本ボディビル選手権大会を見てきた

10月14日、日本ボディビル選手権大会を見てきた。場所は浜松町駅から歩いたところにあるメルパルクホール。なぜアイドル評論家の自分がボディビルの大会を見るのかと言えば、観客が叫ぶコールに、アイドルファン文化との親和性を感じたから。こういった、外部からは理解されづらい文化事象を観察することは自分のライフワークになりつつある。
13時開始ということだったが、実際に審査が始まるのは14時、ということで、14時過ぎに会場入り。マッチョな人たちばかりかと思ったら、女性も子供も見られ、ちょっと拍子抜けする。2階席最前列といういいお席。すでにステージ上では30名弱のボディビルダーがポーズを決めている。ボディビルと言えば、「でかい!」「切れてる!」という叫び声がよく知られていると思うが、実際の会場では、選手の番号を叫ぶ声が大半で、しかも女性や子供の声がよく聞こえる。「19番!」「15番に注目だ!」「6番すごいよー」「21番大好き!(これは女性に対する男性の叫び)」など。または選手の名字をシンプルに叫ぶなど。選手がポーズを決めている最中には、基本的に客席からの声がほとんど途切れない。



▲「フロントダブルバイセップス」のポーズ(画像粗くてすみません)


▲大相撲の土俵入りのような雰囲気


▲女性の場合、買い物袋を提げている格好に見えてしまった


開場のメルパルクホールはほぼ満席。写真は撮り放題なので、至るところでフラッシュが焚かれている。2回最前から下を望むと、1階席の5列目くらいまでは関係者席のようだ。最前中央には審査員の席が設けられている。大会の流れを簡単に説明すると、プレジャッジで規定のポーズを行い、審査の結果ファイナルに残る12名を選抜し、ファイナルは一人ずつ、自分の選んだ曲に合わせて1分間自由にポーズをとる。これで順位が決まり、最後のポーズダウンで12人がポーズを決める中、下位から順に選手が呼ばれ、最後に残った選手が優勝となる。
入場者には無料でパンフレットが配られ、これが初心者にも非常にわかりやすいものだった。パンフレットによると、ボディビルには基本ポーズと7種類の規定ポーズがある。それぞれが肉体のどこかの筋肉を強調するものである。大会の様子を見ていくと、とても型を重視した世界であることがよく分かる。もちろん決められた型に沿うことが、そのまま筋肉を美しく見せることでもあるのだから当然であろうが、審査に関わらないであろうところでも体の動きをいちいち意識して、ナルシスティックに振舞う。それは、こうした場においてはとても似つかわしく、全く笑う気にはならない。たとえばプレジャッジでステージ上の壇の上に昇った瞬間にポーズを決めるとか、表彰式で他の選手が表彰を受ける最中もずっとポーズを決めていたりとか。また、サイドチェスト(横向きになり、胸の厚みを強調するポーズ)で、入念に足の立ち位置を定め、腕を振りおろし、それから腕を引き上げて胸の筋肉を盛り上げていく一連のゆっくりした動作は、ある種伝統芸能の身体所作を思わせないでもない。
そういう、かっちりとした型に基づいた身体の動きをずっと見せられると、その世界観に自らの身体も順応して、次第にテンションが上がってくるのが分かる。これはとても貴重な体験である。もちろんそれは、会場の熱気にあてられてそうなっていく側面もある。



▲サイドチェスト


ところで、男女でポーズの決め方に少し違いが見られるのも面白かった。男性は基本的には手はがっちり握るが、女性は手を開くことが多い。男女差について言うと、男性は筋肉量が多くなって、体が大きくなっていくが、女性の場合丸みのある身体を絞って絞って細くしていっているように見える。あまりにも筋肉だけで、胸にビキニをつけているのが不自然に見えてくる。
筋肉は若さの象徴と言えなくもないと思うし、その点で若さが重要な基準となりうるアイドルとボディビルダーは親和性があると思うのだが、自分にとって意外なことに、ボディビルダーは全然若くない。大会に出場した男性ボディビルダーの平均年齢は41.7、女性ボディビルダーにいたっては平均年齢は48.9才である。筋肉を増やしていくのには時間がかかるらしい。それにしても、女性の平均年齢の高さの理由を知りたい。と思ったら、パンフレットにボディビル歴の数字もあったので、選手権参加者のボディビル歴と、ボディビルを始めた年齢の平均値を計算してみた。男性のボディビル歴の平均は18.7年、始めた年齢の平均は23.0才。女性はボディビル歴の平均は9.9年、始めた年齢の平均は39才である。これは面白い。ボディビルダーと結婚した女性が、子育てが一段落した時期にボディビルを始める、という流れを想像してしまうが、実際はどうなんだろうか。
もう一つ強く疑問に感じたのは、すでにできあがった筋肉に加えて、当日のパフォーマンスによって果たして審査結果に違いが出るのだろうか、ということである。ある程度は、すでにできあがった筋肉で結果は決まってしまうのだろうと思われた。大会のキャッチコピーも「至高の肉体彫刻を見よ!」とあり、作品としての静的なイメージを思わせた。とはいえ、もちろん大会においてはボディビルダーのポーズこそがメインコンテンツであって、それに対してタイミングよく入る観客の歓声、叫び声によって、見る見られるの関係性が強化、強調され、現場に独特の熱気と連帯感が生まれる。
休憩中にロビーに出て物販コーナーを見ると、プロテインの割引販売が目立つ。角田信朗氏が物販コーナーにいた。書籍やDVDにサインをしてもらえたようだ。大会には出ていない有名らしい選手が、ファンの写真撮影に応じている姿もあった。人でごった返しているのに加え、横幅の広い人が多いので、なんともせまっ苦しい。ボディビルに携わっていない一般人ぽい客が、「どこにいても居心地が…」と言いながら歩いて行った。
ファイナル、進出者12名が一人ずつ、ステージ中央後方で後ろから強烈なライトを浴びて、スモークの中で筋肉のシルエットとして浮かび上がった後に、ステージ前方に歩み出て、それぞれ選手が選んだ曲に合わせて1分間お得意のポーズをとっていく。この選曲が人それぞれで、トトロの「風の通り道」なんかを選曲する女性の選手もいた。なるべくメリハリの利いた曲でないと、次々に決めていくポーズとマッチしないような気がした。このファイナルは最もアイドルとの親和性を思わせた。
その後、順位発表のポーズダウンに入った。女子12人が入場、それぞれがポーズをとる中、12〜7位はあっさり発表。ゆっくりと6位から1位までを発表していく。表彰が始まっても、選手たちは買い物袋を両手に提げたようなポーズ(失礼)を崩さない。プロテインなどたくさんの副賞をもらい、またここで観客からプレゼントを手渡しできる「接触」の時間も設けられ、最後にもう一度ポーズを決めて終了となった。



接触イベント、プレゼントを手渡しするなど


▲最後にもう一度、決めポーズ。女性のポーズは指先が男性と違う


男子も同様の流れ。男子のトップ3は、サイドチェストなどお得意のポーズを、これでもかと3人近く寄り添って、さあ撮れと言わんばかりにドヤ顔をする。この大会の大きな見せ場であった。男子は鈴木雅選手の4連覇ということだったが、筋肉のバルク(量)やキレ(筋肉の形がはっきりわかる)両面で、やっぱりすごいみたいです。確かに腿の筋肉量はすごかった。たしかに、でかい。


▲トップ2、筋肉のシルエットで魅せる


▲やはり接触イベント


▲決めポーズ


ということで、4時間近くの大会だったが、全く飽きずに楽しめた。これはすごい世界だ。と同時に、魅力も十分に感じられて、大満足の一日だった。