9/8 日本橋タカシマヤで青森のアイドル「りんご娘」を見た

先週の話になるが、日本橋タカシマヤの屋上で、「大東北展」に関連した青森県の宣伝イベントに、青森のアイドル「りんご娘」が出演したのを見てきた。


りんご娘HP http://www.ringomusume.com/jcms1/
以下は「りんご娘とは」からの抜粋。
「コンセプトは「cool&country」。音楽・芸能活動を通した地方からの情報発信と、地元青森の活性化、そして青森りんごや新鮮で美味しい農産物、周りを海に囲まれた青森ならではの豊富な海の幸、また地元の皆さんが一生懸命作った特産品などを、もっともっと全国に!そして海外へ広げるために、農業活性化アイドルとして日々活動しています。」



当日、日本橋タカシマヤ8階にて「大東北展」が行われており、主に年配の方々で大盛況であった。屋上でもいろいろな惣菜、弁当の販売が行われていたようで、年配の方々(以下「ジジババ」と表記)が日陰でゆったり過ごしていた。そんな屋上の日なた部分にステージが設営されていた。

ステージ前に椅子が40席ほど。イベントは13時からであったが、15分ほど前の段階で席は埋まらず。日光が強く照りつけていたので、座って待つのは結構きつい。それでも最前列に座っていた人は、それなりにりんご娘を知っている人たちなのだろう。とはいえ、自分の慣れ親しんだアイドル現場にいるような客層はいない。おじさん、おじいさんばかり。イベント開始時でも席は7割ほどしか埋まらず。これは多分暑いからで、日なた部分の椅子の後方には、傘のついたテーブルがあり、そこではジジババがゆっくりしていたので、その方々もイベントを楽しむことになる。その付近にTシャツを着ている人や、うちわを持っている人もいたが、ほとんど目立たず。
13時にイベント開始。まずはりんご娘の自己紹介。りんご娘の4人にはそれぞれりんごの品種名が名前としてつけられている。金星・ジョナゴールドレッドゴールド・とき(下の画像、メンバーはこの順)、の4人。自己紹介と同時に、そのりんごの特徴をアピール。これ、他のアイドル文化と比べた時に、愛称とか、名前を叫ぶとかがしづらい名前だと思ったが、考えてみると、名前を叫ぶようなアイドル現場じゃないから、全く問題なし。それでも、おばさんが「レッドー」って叫んでいたけど。


りんご娘のスキルの高さは、まずしゃべりの安定感だ。特に他の司会役に任せずとも、基本的に4人で話をまわして、イベントを進行することができる。そして言葉の訛りが地方を感じさせる。これは先日の四国旅行でも感じたこと。
一曲目「どすこい金星」。これは青森が力士を多く輩出している相撲どころであることから、歌詞に相撲の決まり手が含まれたり、「どすこい」的な振り付けも入った曲だ。こぶしをきかせた演歌のような歌い方をする。
その後、クイズコーナー。青森にまつわるクイズをお客さんに出題(3択)、正解者にりんご娘グッズをプレゼントするというものだ。棟方志功やら、ストーブ列車、津軽弁のクイズなど、10題出題して、正解者に、CDやTシャツ、手ぬぐいタオルをあげていた。このコーナーでは、特に答えに自信のないジジババも挙手をして、後ろの方までメンバーの「金星」さんがマイクを持って答えを聞きに行き、「とき」さんがプレゼントをあげに行く、ということを繰り返した。そこでの「ジジババいじり」のうまさ。コーナー終盤、不正解だった男性が、「残念賞くれ!」と叫んで場がなごむとか、「声が大きい人に指します」に対して(愛すべき)ジジイたちが「はい!はい!」となったりする様を見るにつけ、こうした場の作り方をりんご娘が得意としていることが分かる。
その後、2曲歌う。「トレイン」と「だびょん」。りんご娘のスキルの高さ、2つ目は、歌唱力だ。正直言って現在の首都圏を中心とするアイドル文化におけるアイドルの歌唱法の平均値とは大きく離れる、という点でアイドル的ではない。演歌のような、合唱のような、はっきりとした発声をする。とにかくうまい。「最後の曲」にも当然「エーイング」もなく、穏やかにラストの曲、「だびょん」にうつる(「だびょん」は津軽弁で推量の意)。ここでは簡単な振りと掛け声を客に要求。ただ手を挙げて手招きをするように手首を曲げる振りと、「だびょん、だびょん、だびょん、だびょん」と叫ぶだけだ。ジジババにも分かりやすい。
以上、50分ほどのイベント。イベント後に物販はなし。CDをプレゼントしていたのに、売らない(まあ買う人はあまりいないかもしれないけど)。
まとめると、りんご娘は非常にスキルの高いアイドルで、MCのうまさ、歌唱力、青森のアピールをする力があって、そしてジジババ現場にうまく適応したアイドルである(もし地元青森で若者に大人気だったらすみません…)。衣装もしゃべりも純朴な感じだし、曲も歌唱法も振りもジジババに優しい。冗談でもバカにするでもなく、各地方に高齢者向けのアイドル(慰安する存在)って、これからより必要になってくるのではないか。ともかくこの「りんご娘」というアイドルはひとつの完成形なのではないかと思う。りんご娘は2000年結成という非常に息の長いアイドルだが、メンバー交代を繰り返しながら地元でイベントをこなしていくうちに、地元に定着し、また今の安定したスタイルを手にしたのかもしれない。



さて、地方アイドルへの関心から、先日以下の本を読了した。

この本はアイドルの本というより、地方の商店街をどうしたら活性化できるかという研究の中でアイドルグループ「S.H.I.P」を取り上げている。「S.H.I.P」(以下SHIP)は山形県酒田市・中町商店街の活性化の為に結成されたアイドルグループで、2001年〜2006年頃まで活動をしていた、初期の地方アイドルの代表的な存在であった。
興味深い本ではあったが、まずは苦言から。まず、文章が下手であるということ。文章の流れが見えにくく、その下手な文章を無理やり小見出しで区切って、なんとか体裁を保っているように思われる。次に、東京の大学生に地方の商店街やアイドルについてのアンケートをとっているのだが、その結果を300ページ弱の書籍中の約3分の1を割いて載せていること。同じような回答が並んでいるものを全て載せる意味がよく分からない。実際、その結果は数ページでまとめることができるものだ(このせいで書籍の価格が無駄に高くなっている気がするのだが)。それから、フィールドワークでSHIPのメンバーにもヒアリングを行っていたらしいのだが、その結果がどこにも書かれていないようだった(なにかの理由で載せることができなかったのだろうか)。
というわけで内容的には薄い本(というかあまりまとまりのない本)だと言わざるを得ないのだが、それでも地方アイドルを扱った本として貴重であると思いながら読み進めた。
地域活性化について、アイドルが人と人とを結ぶメディアとして機能するということ(P140〜141)、また、アイドルだけに依存してはいけないという主張(P237)については示唆があると思われる。これは地域活性化に限らず、アイドル(あるいは他の文化事象)が現象として盛り上がるためには、たとえばそれらを受容する人々の横のつながりであったり、その現象をサポートする人々の創意工夫も必要であるということを思う。プロスポーツチームの運営なんかも、まさにそうではないかと思う。
学生のアンケート結果の中に、「今後一つの県に一つの代表アイドルが誕生して、その県を象徴する存在になっていったらおもしろいかもしれない」(P219)とあるが、いまやご当地アイドルがいない都道府県の方が少ない状況になっている。正直このアイドルブームが続くとは思えないし、ご当地アイドルにも様々な種類があり、力の入り具合も、地域への密着度もそれぞれであるが、現象としての盛り上がりには注目したい。特に地域を盛り上げるという点とクオリティの高さにおいて、地域の商店街とも連携をとっている「ひめきゅんフルーツ缶」(愛媛)と、青森をひたすら売り込んでいた「りんご娘」(青森)は、実際に見た上で非常に面白いと感じた。


今月24日には北海道のご当地アイドルを見に行く予定である。正直言って「ご当地」とか「地方」という言葉がだんだんよく分からなくなってきている。地方は大都市圏の文化を後追いしているだけなのか、それとも独自性を保っているのか。ご当地アイドルが、ただある地域で活動しているアイドルということで、大都市圏のアイドル文化と大きな差異を見出せないなら、さほど価値もないだろうと思う。とはいえ一方で、アイドル文化が生身のアイドルだけでなく、そのイベントが行われる場所性とも結びついてファンとの相互作用のもとで生成されていることを考えれば、やはりその場所に行かねば分からないこともあるのではないかとも思う。しかしそうなると、遠くに行くという体験そのものが自分にとってのアイドル現象に含まれることにもなって、遠出することは基本的に自分にとって楽しいことなのだから、ご当地アイドル体験は当然に楽しいものになる。これはアイドルを評価することになるのだろうか。ただ遠いというだけで、そのアイドルがよいものとして体験されてしまう可能性。たしかに、ひめキュンはなかなか見ることができないから、なおさら見たい、という気もしてくるのだ。
まあ、御託はいいから、まずは行ってみよう。