「ラブドール/抱きしめたい!」上映会・特別トークイベントレポ

ヴァニラ画廊にて。
ラブドール関係のイベントなのだが、男女比3:7くらいか。人形作家森馨さんのファンが来ているのだろうか。


http://www.vanilla-gallery.com/gallery/lovedoll/lovedoll2.html
5月8日(土) 「ラブドール/抱きしめたい!」上映会・特別トークイベント
ゲスト予定・村上賢司(「ラブドール・抱きしめたい!」監督・編集)・林拓郎 (オリエント工業・「ラブドール/抱きしめたい!」人形演出)・森馨(人形作家)


さて、トークイベントが面白すぎたのでできるだけ再現。
林拓郎さんはオリエント工業で広報・品質管理・企画を担当している方。後の質疑応答で明らかになるが、わざわざオリエント工業で働くために上京してきたとのこと。ひとつは人形に惹かれて、もうひとつはオリエント工業社長のweb上での言葉に惹かれて、ということだが、すごい人だ。自分も世間体を気にしないでいいなら働いてもいいと思う。
村上賢司さんは映画監督。普段はアイドルの深夜ドラマとかサブカルドキュメンタリー(秘宝館など)を撮っている方。ラブホテル映画の配給をしていた会社の社長にラブドール映画を撮らないかということを勧められる。実際に上野のラブドールショールームに行って、これはすごいものだと思い、製作を決意する。
森馨さんは球体関節人形作家。愛・性の欲情+美の人形制作を意図している。



森:立体物への興味。ラブドールは美しい+実用性というすばらしさ。「完璧」。愛されるために作られている。気持ちいい気を発していて、見飽きない。
林:自分は毎日のように見ているので、見飽きている。ただ、他の人が演出したラブドール(例えばヴァニラ画廊での展示)を見ると、「あっ」という瞬間がある。人に扱われているのを見ると、工業製品ではない立ち現れ方をする。
森:かわいがるほど人形の顔が変わると言いますね。かわいいと思うとかわいくなる。
林:実は、ラブドールを撮るカメラマンも、話しかけながら撮っている。
村上:映画の編集は大変だった。ずっと人形を見ているので、段々おかしくなってくる。音響もカメラマンもおかしくなっていった。ところで、人形にとってエロスを感じるのはいつかと考える時に、以前文楽人形浄瑠璃)を見に行ったことがあるのだが、人形なのに、ある種の感情を人形で表現した時、ある瞬間に人間以上のエロス・思い入れを感じてしまうことがある。(うろ覚え)
ラブドールのユーザーっていうのは、一体どういうこと(どういう感覚)なのか。
林:村上監督の場合は客観視しているが、ユーザーは毎日一緒に暮らしているので、そこは違う。取材に来た人も、帰るときには(ラブドールの)名前を呼んで帰ることがある。
村上:ラブドールは頭部がつけかえられるから役者の入れ替えが楽だなと思いました(余談)
林:取材に来る人は、最初はおそるおそるで、恥ずかしさもあるのだが、ショールームのそれが当然という雰囲気によって慣れていく。自分も家にラブドールを置いていたことがあるが、やはり無視できない。声をかけてしまう。
村上:造形物としてすごいですからね。
森:普通にかわいいから、その感覚が普通でしょうね。
村上:(撮影時のエピソード)スチールカメラを使用。ラブドールが動かないので、画面構成力のあるカメラ。また、照明の予算もなかったので。撮影は川崎の商店街で行ったが、通行人がファッション雑誌の撮影としか思わない。おばさん、こどもたち。
河原の草むらでラブドールが横になるシーン、日が暮れてしまいペンライトを使っている。そこで林さんが「こんな麗ちゃん見たことない!」と言ったのが印象的。
林:草むらがぬれていて、そこに寝ている。胸の鼓動が聞こえるシーンなんですけどね。
村上:そんなこと恋人に言いたいですよね(もう自分は結婚してますけど)。
工場のシーンがあるんですが、工場と人体の融合もいいかなと思った。正直言って、アイドルよりも工場とか秘宝館とってたほうが面白い。
森:カメラマンの発案で人形と工場のコラボをしたことがあるが、相性がよい。どちらも人間ありきの存在だから。工場も人間がいなければ動かないし、人形も人間があつかってこそ。「人間待ちのせつなさ」がある。
村上:森さんの人形は実際に売ってるんですか?人に渡った人形がどうなるかは気になります?
森:大事にしてくれたほうがいいですが、基本的に買われた方がどうしようがかまわない。技術として作ることができればの話ですが、ラブドールのように愛撫だとか性的な用途として使われることがあればそれはそれで光栄。
村上:アートと実用性(昔で言えば大人のおもちゃ的なもの)の境界がなくなってきている。「この造型師の人形でやりたい」というような人が出てきてもおかしくないし、あってもいいんじゃないか。そもそも、何が実用なのか。…ドバイの人たちとかがオーダーしたら夢としていいなあ。
森:いい話ですね。
村上:都築響一の本で、亡くなった老人が生前見るなと言っていた部屋を開けたら、蝋人形の男性器・女性器(しかも名前がつけてある)があった。蝋人形師に作らせたその情熱がすごい。秘宝館の社長でもそうだが、性的な妄想の具象化が面白い。一方で、ユーザー向け、ニーズに合わせるための切磋琢磨もまた面白い。どちらも面白い。
林:いまのラブドールは出していった結果、生き残ったものですからね。
村上:(ラブドールの顔は、)誰かに似ているようで、分からない。
森:日活ロマン風に、舌を出した人形もいますね。
林:潤です。
森・村上:絶妙な名前ですね。
林:ラブドールは、できあがって売れそうだ、と思ったものは売れる。なぜ売れるのか分からないものもある。いろいろなニーズがあって、30パターンほど顔の種類はある。だから多少マニア向けのものも作れる。「困った顔」のものもあるが、それは意図して作った。一番出るものは、「やさしい、おとなしい、おだやかな顔」。2000年くらいまでは、大人っぽい人形も人気だったが、1999年に「アリス」(それまでのイメージを一新した愛らしい表情の人形)を出したあたりから、おとなしい顔が人気となった。気の強い、セクシーな人形はあまり人気がない。
林:顔は、有名人何人かの名前を出して、それをコラージュしていく感じ。
村上:ユーザーの声は?
林:この顔(有名人)を作ってほしいというような。顔は数値化できないので(難しい)。
森:人形は同じ顔で全てをこなさなければならないので、従順な表情が一番よいのでしょうか。
林:好きな顔というより、嫌いでない顔を作ろうとする。不気味にならないための顔。意志を持っている顔だとこわい。
森:作家意志があるとうっとうしい。
林:創作過程が、どんどん削っていくという進み方になる。



質疑応答(自分の興味があるもののみ記す)
Q:男の人形のニーズはあるのか?
林:意外に少ない。商売にはならなそうだ。60万ほどすることになるが、買う人がどれだけいるのか。
Q:ラブドールの耐久年数は?
林:材質としては10年以上。消しゴムよりは強いが、バンザイができないなど気をつけなければならない点はある。着替えも難しい。
Q:映画は淡々とラブドールを映していくが、演出意図は?
村上:これってすごいなという部分をまず見てほしいということ。でもそれだけでは映画にならないので、ゆるやかな物語性を意識した。
Q(斧屋の質問):ラブドールユーザーはどのくらいいると推定されるか?
林:分からないが、ここ10年では、一年につき1000セット程度出荷している。



イベント終了後、ヴァニラ画廊内を見学。やはりラブドールの造形がおそろしいほど美しい。もともとの性欲処理という世界をはるかに逸脱して、美しい世界だ。特に目と唇の美しさが際立つ。一体触ってよいラブドールがあったので、手を消毒して触ってみる。完全に人間の肌の感覚とは言えないにしても、胸の部分は柔らかめに出来ていたり、手の造形も美しく、すばらしいものだと思う。逆に言うと、昔の空気人形・ダッチワイフと言われる、今から見れば粗末なもので、よく昔の人は性欲を処理できたなということも思う。昔の人のほうが想像力がたくましかったのだろうか。しかし、一方でまた人間の想像力とそれを具現化する技術力によって、美の極致まで到達しようとしているラブドールには圧倒された。つい話しかけてしまう対象として、ラブドールはたたずむ。そこでもはやラブドールは、命を与えられている。そこにあるのではなく、間違いなく、いる。…「他者」の条件について、またも考えさせられた。