アイドルの倫理?

加護の件で、アイドルに対して倫理を求める論調がどっか得体の知れないところから湧き出ているので、それについて考えておきたい。まずは、そもそもアイドルという存在が危ういことを確認しなければならない。

①アイドルになりたくてなったかどうかということ。
例えばモーニング娘。の成り立ちが、ロックボーカリストオーディションであったことからも分かるように、そもそもモーニング娘。はアイドルではなくて歌手を目指す女の子を集めたものだ。彼女達はメディアと時代に操られるようにアイドルに仕立て上げられた。決してアイドルになりたくてなったわけではない。
自分で選んだ判断に対して責任を負うというのは理解できる話だ。しかし、アイドルという道を主体的に選んだわけでもない彼女(ここでは矢口を念頭に置くが)に対して、どこまで責任を問えるのかってのは、もうちっと繊細に語ってもいいんじゃないかと思う。もちろん何年もアイドルを職業としてやっている以上、もともとしたかったかどうかなんてことは問題にならないと考えることもできる。けれども、僕には彼女に対して時代錯誤的な「アイドルとしての倫理」を求めることこそ、非人道的で責められるべきことのような気がするんだよなあ。
またこの夏も、彼女は司会という飾り物の位置に甘んじるのだ。

②アイドルになりたいとして、どこまで覚悟できるのか
4期以降の娘。およびハロメンに関しては、大方「アイドルにあこがれてなりました」と言ってしまっていいと思う。のだが、メディアリテラシーもなにもあったもんじゃない普通の少女がアイドルの闇の部分を知るわけもなく。人一倍欲望が強い けれども何にも知らないいたいけな少女に、突然普通の人間でなくなる覚悟を求めることができるのか。
そういうある種のプロ意識なるものは、ある程度経験を積んだ後でなければ身につかない。例えば正月の吉澤なんかがそうだ。しかし皮肉なことに、大体そんな風に覚悟ができたころには、アイドルとしての旬の時期は過ぎてしまっていることにもなる。アイドルの多くが、純粋さ、若さを売りにしている以上、覚悟やらしたたかさってのを同時に求めることはかなり厳しい。
アイドルには覚悟が必要だ。だけど覚悟ができて、慣れちゃったアイドルは「つまらない」。

③アイドルになりたいとして、それは手段か目的か。
「……ある日突然出会った男の子に一目惚れ。その男の子が超人気アイドルユニットのひとりと知ったきらりは、近くにいたい一心で、アイドルを目指すことに!!……」
アニメ「きらレボ」のストーリー紹介にこうあります。
少なからぬ女性アイドルが、こんなもんではないのだろうか。芸能界という華やかな世界にあこがれて、アイドルになる。
手段としてのアイドル。例えば、今雑誌のグラビアを飾る水着姿のアイドルの多くは、その後グラビアを卒業して女優になることを夢見ているだろう。あるいは、当初の娘。のように、歌手になるための準備期間として捉えているアイドルもいるだろう。いずれにしても、アイドルを通過点として捉えるなら、アイドルでありつづけることの必要性はないし、未練もないだろう(果たして、松浦がもう一度「アイドル」であろうとするだろうか)。
そんなモチベーションのアイドルに対して、「アイドルの倫理」を求めるには無理がある気がする。まして華やかな世界にあこがれて入った芸能界だとしたら、禁欲的に振舞えなんて、無理無理。

④アイドルになりたかったとして、いつまでアイドルでいれるのか。
手段としてのアイドルではなくて、アイドルそのものにあこがれてアイドルになったとしても、いつまでアイドルでありつづけるかという問題がある。アイドルは貴重な経験であるとは言え、いつまでもアイドルでいたいと彼女たちが思うわけでもないだろうし、現実的にずっとアイドルでいられるわけでもない。
アイドルの輝きつづけられる期間は、普通三年くらいとかよく言われるが、それは消費者側の事情でもあるだろうし、あまりの精神的肉体的負荷にアイドルが耐えつづけれらないという事情もあるだろう。
そういう現実があるのなら、ある程度やり切った感が出た時点で卒業というシステムをとる娘。ってのは、人道的な措置がなされていると考えてもよい。僕はまだ松浦亜弥にもアイドルであることを強いたいのだが、楽曲によって松浦がアイドルを卒業したことを示し、支持層を変えていくというのは、松浦にとってはおそらくよいことに違いない。安倍も、もう「恋のテレフォンGOAL」みたいのは出さないんだろうなあ。
我々はしばしば、ずっとアイドルでい続けろ、ということをアイドルに強いている。夢を与えた以上、ずっと夢見させてくれ、みたいな。だけどそれは無理だ。むしろ、諦めの作法のようなものを僕らが求められることになるだろう。


いずれにしても、アイドルに倫理を求めるのはどーかと思うのだ。事務所の指導不徹底ってのは多分あるとは思うけれども、アイドルシステムってのはそもそも脆弱なものなのだ。それはアイドルの魅力と背中合わせなのだと思う。