桃のパフェ論

桃のパフェについて論じておこうと思う。桃はパフェに適した食材である。フルーツが全てパフェに適するわけではない。メロン・マンゴー・イチゴとともに、桃はパフェで使われるべきフルーツの筆頭格である。特に単独でパフェの名を冠する存在として、桃は外せない食材なのである。7〜8月で、桃のパフェを4つ食べたが、この桃のパフェからいろいろと考えたことを記しておきたい。


1.水蜜桃のぱふぇ(980円)フルーツむらはた(金沢)
桃八片、ソフトクリーム、ももシャーベット、桃、少量のコーンフレーク。念願のむらはた、日曜でかなり並んでいた。たぶん客の半分以上が桃のパフェを頼んでいた。

見ての通り、下までいっぱい桃の入った、これでもかと桃を押し出したパフェ。さすがのむらはた。



2.和歌山県産白桃パフェ(1890円)資生堂パーラー(銀座)
桃があまくない。小さく切った桃が入っている。少量のフィヤンティーヌ、桃のシャーベット、バニラアイス、下層にもも果実とゼリー。容器の底が広くて、スプーンで最後まですくえる。


3.桃と夏フルーツのパフェ(1260円)西村フルーツパーラー(渋谷)
桃と、スイカやいろいろと夏のフルーツの盛り合わせ。安定の西村。すばらしくはないが、普通においしい。


4.桃のパフェ(1260円)シェフドフランス(南アルプス
ほぼ桃と生クリームとバニラアイスのみで構成されたパフェ。すごい量。だけど飽きない。季節ごとにパフェが変わり、パフェを含むフランス料理のコースメニューがある。

シェフドフランスは開店後すぐにお客さんでいっぱいになる、地域で人気のお店のようだ。フランス料理もおいしかった。パフェは単純な構成だけど、おいしい、誠実なパフェだった。




まずは甘さの問題。基本的にはパフェは甘さで勝負するデザートであり、それと対比させ、また引き立てる存在として酸味や苦みがある。フルーツパフェの場合、当然フルーツが主役であり、そのフルーツが甘くない場合、パフェとしては決定的な欠陥ということになる。たとえば資生堂のパフェなどは、その点でかなりのマイナスであった。もう一つ重要なことは、パフェの主要な構成要素であるところの生クリームやバニラアイス、ソフトクリームの使い方である。これらが甘すぎると、フルーツの甘味を殺してしまう。だから、たとえばバニラアイスの甘味を抑えるとか、量を少なめにする等の配慮が必要になる。この点で、シェフドフランスのパフェは難しい問題を抱えていた。桃、生クリーム、バニラアイスのそれぞれは非常においしいのだが、お互いを引き立て合う、というものではなかったのだ。
もう一つ、甘さを持続的に感じさせるための工夫について。同じものを食べ続ければ、その甘味は感覚としては徐々に薄まってきてしまう。それを防ぐための工夫として、たとえば甘味を抑えたバニラアイスで舌をリセットする方法がある。あるいはチョコレートパフェであれば、苦みのあるチョコレートを挟むことで甘味を強調する手もある。今回、シェフドフランスのパフェが勿体なかったのは、コース料理の中に組み込まれていたメインディッシュ後の飲み物(紅茶)が、パフェを半分以上食べ終えた後に出てきたことだ。もしせめてパフェと同時に出してくれたなら、食べ手の方で、適宜紅茶を飲んで舌をリセットしながら甘味を持続的に味わうことができただろう。このように、実はパフェを食べる際に、その脇に甘くない飲み物があることは重要である。目黒果実園が水にレモンを入れて提供するのは、そうしたことをよく分かっているからだ。
最後に、硬さの問題にも触れておこう。パフェは、基本的に柔らかいもので構成されている。メリハリをつけるという点では、硬いものもあったほうがよいという考え方があるかもしれない。しかし、特にフルーツパフェについては、硬いものが含まれるのは食感(触感)としては邪魔になるリスクが高いように思われる。多くの論者によってほぼ共通認識として確立したように思われる、「パフェにコーンフレークはないわー問題」のことを考えてもよい。いずれにしても言いたいのは、パフェに硬い食材を入れる際にはくれぐれも慎重になったほうがよい、ということである。むらはたのパフェにはコーンフレークが入っていたが、少量であり、許せる量であった。これはよく分かっている。
この点において、資生堂のパフェで感心する点が2点ある。まずは、硬い食材としてフィヤンティーヌを使用した点。これまでいろいろパフェを食べてきた中で、パフェの全体としての流れを崩さずに、サクサクした食感を与えてくれるものとしてはフィヤンティーヌがベストだと考えている。フィヤンティーヌはコーンフレークより硬さも大きさも厚みも控えめで、ちょうどいい食材なのだ。資生堂のパフェでは、フィヤンティーヌの量が多すぎることもなく、適切だった。そしてもう一つ、桃のパフェとして重要な点がある。桃は硬さの点で幅のあるフルーツで、硬い部分はそれはそれでおいしい、という特徴がある。資生堂のパフェでは、柔らかい部分は大きく使い、パフェの中層以下では硬い部分も含めて小さくカットした果実が入る、というメリハリが効いていたように思う。以前倉敷の三宅商店で食べた「桃のフローズンパフェ」もそのバランスが絶妙のパフェだったことを思い出す。メロンやマンゴーと異なり、桃はこの硬さの幅がある。これを利用しない手はないのである。
以上、いろいろ考えたことでした。桃はいろいろな食感を楽しめるパフェ向きのフルーツなので、これからも食べていきたい。あっと驚くような桃パフェにも出会ってみたいものだ。