きゃりーぱみゅぱみゅのマジカルワンダーキャッスル in 横浜アリーナ

1月19日、横浜アリーナきゃりーぱみゅぱみゅのライブを見てきた。
きゃりーぱみゅぱみゅを考えるにあたり、アイドルとの関係で前提として述べておきたいことは2つある。
1つは、アイドルというものが、ある人格的存在によってのみ担われる存在ではなく、それを中心として形成されるイメージの総体であるということ。きゃりーぱみゅぱみゅはMVを見れば分かるように、世界観の作り込みを丁寧に行っている。だからある人間をきゃりーぱみゅぱみゅと呼ぶというよりは、世界とか物語に対しての呼び名と言う方がしっくりくる。実際、ライブ冒頭できゃりー(人間の方を記事内ではきゃりーと表記しよう)が「テーマパークに遊びに来ている感覚で」楽しんでほしいと言っていたが、これは適切な表現だと思った。
もう1つは、きゃりーぱみゅぱみゅの歌詞についてである。きゃりーぱみゅぱみゅという名前もそうだが、もっぱら言語の機能を音感に偏らせて、意味を強く持たせようとはしない。これは海外に届ける、あるいは子供に届けるときに(つまりは誰にでも広く届けるときに)有効に働く。意味が分からなくても、なんとなく楽しい。衣装と踊りと、意味を離れた音の連続。「PON PON PON」、「CANDY CANDY」、「にんじゃりばんばん」といった曲タイトルは、そのまま曲内で何度も連呼される。「インベーダーインベーダー」は「世界征服だ」と「インベーダー」の「ダ」の音が強調されて、その音を楽しむことを主眼とした曲と言ってよい。ライブでもステージ上のバックスクリーンでは、ピンク色の大量の「だ」がこちらに向かって飛んでくる映像が延々流された。アイドルの歌詞は、しばしば音感を重要視して、擬音語、擬態語の類を多用する。それは、ライブでの楽しさを追求するものであると同時に、言語の意味内容(メッセージ)より、身体性(存在)そのものを訴求対象とするアイドルにふさわしいやり方でもある。


さて、横浜アリーナに着いて、観客の様子を見ていると、おおよそ55〜60%くらいが女性という印象。親子連れは全体の10%くらいか。予想していたよりも男性が多かった。ステージはお城のセット。オルゴール調のゆったりしたおとなしめのBGMの中、開演前から動物の頭をした「動物騎士団」がステージ上でジャグリングなどをしている。また左右のスクリーンでは、様々なコスプレをした観客を次々に映し出し、開演まで飽きさせない演出がなされていた。開演時間を15分ほど押した。
ナレーションが入って開演。これはライブの始まりとしては珍しいのではないか。うろ覚えだがなんとなく書いてみると、「ここは、遠くて近い国、もったいないとランド。」そこへ悪者がやってきて、お城にあやしげな魔法をかけてしまう、お城に閉じ込められたプリンセスを、助けることができるのだろうか、みたいな感じ。お城のセットが、突如紫色のにょきにょきしたものに覆われてしまう中、ステージ上からきゃりーが降りてきて、「ファッションモンスター」を歌う、という始まり。暗転すると同時に、客席のペンライト(?)が一斉に灯った。公式グッズのスティック型のライトを買う人が多いのだろうか。

3曲終わってMC。何か、いつものアイドル現場と違うものを感じたが、考えてみるとファンの応援文化に統一感がないのだ。これは一方で多くの人に支持されていることも意味する。曲中に振りコピをする人もいるが、けっして多くはなく、多くの人はライトを振るか、なんとなく音楽にノッている感じである。それが、個人的には物足りないと言えば物足りない。どちらかと言えば、このライブは向こう側から与えられる世界観を享受する、受動的なスタンスで楽しむべきライブのように感じられた。もちろんその中でもコスプレや振りコピによって、能動的にコミットしようという観客も少数いるわけだが、会場全体としては、受動的な雰囲気が強くなる。これは客層を考えれば当然のことである。
でも、ならば、もっとセットに金をかけて、その世界観に十分に浸らせてくれたら、とも思った。今回のセットはステージ中央から花道が突き出ている感じで、センター席の中ほどの客までは間近で見られるステージ設営であったが、せっかくバックダンサーも多いのだから、たとえばセンター席を囲むような回廊を用意するとかで、少しでも演者を近く感じさせる演出はできなかったのだろうか。「テーマパークに遊びに来ている感覚で」と言うならば、近くにテーマパーク内のキャラクターがいる、ということが重要な気がした。自分はアリーナ席Bブロック後方という、ステージからの距離が最も遠い位置だからなおさら、きゃりーぱみゅぱみゅの世界観に浸るというところまでには、まだ距離があったように思う。
とはいえ、観客を巻き込む演出は用意されていて、巨大な柔らかい(バランスボールみたいな)ボールがいくつも現れて、観客が手で突き上げることで客席を巨大なボールが巡っていくとか。きゃりーの衣装チェンジのタイミングで、他のダンサー(動物騎士団と妖精ポイパポイパ)がセンター席の通路をパレードのようにゆっくりまわっていくとか、飽きさせない試みはあった。また、ファン文化が十分に形成されていない代わりに、簡単な振り付けで会場の統一感を出す曲はある。「みんなのうた」は手を挙げさせたりクラップさせたりする、老若男女誰でもできる動きをさせる(「ミニモニ。ジャンケンぴょん!」を思い出した)。驚いたのは、名曲「つけまつける」のBメロでPPPHが起きたことだ。ここだけははっきりと、会場全体が申し合わせたようにPPPHで、一体感があった。後でMVを見返してみたら、ビデオ内できゃりーもダンサーもPPPHをしているので、公式設定だったのでした。つまりやっぱり、いまのところきゃりぱみゅはトップダウン的にファン文化が決まっているということのようだ(これは別に悪い意味じゃないよ)。ちなみに、次の曲が最後になります、の時のアイドル現場のお約束の「えー!」もそんなにはっきりは聞こえず。一旦きゃりーがはけた後のアンコールは、初め手拍子だったが、途中で誰かが「アンコール!」と叫びだしたが、結局手拍子にかき消されていったように記憶している。アンコールの仕方も現場現場で違う雰囲気で面白い。
きゃりーぱみゅぱみゅは、世界観こそがキモで、その作りこみさえうまくいけば、ドーム級の箱でも十分にライブが可能なのではないかと思う。きゃりーぱみゅぱみゅほど、独特の世界観をしっかりと丁寧に作れているポップアイコンは他にないと言ってもいいくらいなのだから、贅沢を言うようだが、ライブでもこれでもかという世界を作ってほしいと思ってしまう。(お金かかるけどね…。)