津山〜東京 地方アイドル巡礼記(アイドルフェスタ編)

3月17日、津山文化センターで行われた「ご当地アイドルフェスタ in 津山」の感想を。
キャパ1000人で全席自由。普通なら大混乱しそうだが、血気盛んなヲタが多くなかったのでなんとかなった。整理番号順の入場とは言え、入場するとみんな良席を求めて小走りで前方へ。自分も2列目を確保することができた。前方は騒ぎたいアイドルファンが、後方には地元民やまったり見たい人たち。
おおよそだが、14列目くらいまで、8割くらいの入り。およそ300人くらいの観客。もっとすかすかになるかという不安もあったが、見栄えのする観客の入りで安心した。最前の方にはSakuLoveヲタというか、「地方アイドルヲタ」とでも言うべき人たちが陣取っていた模様。なにやら桜の香水の匂いが充満する。
14時30分開演。出演はS-Qty→きみともキャンディ→ひめキュンフルーツ缶→SakuLoveの順。芸人の司会によってイベントが進行する。イベント開始時から「ふぉーぅ!」みたいな歓声が聞こえて不安になる。え、そういうノリですか。司会進行中、最前列のファンたちがいじってもらいたがって好き勝手叫ぶので、あーこれは困った現場になっちゃったかと不安が募る。最前列だけ内輪で楽しんでいる感じ。これが続くと現場の空気がおかしくなりそうだ。ところで、ステージ左右奥からスモークが定期的にふーふー大きな音を立てて吹き出すのがうるさい。
ライブ開始。S-Qty、色分けされた衣装がきれいだ。脚線美をしっかり魅せる。しかしライブが始まって、まだ会場の空気が整わない。あらかじめ立っていいとアナウンスされていたが、前方のファンたちも立つかどうか決めかねて、どう応援してよいものかとまどいもあったと思う。一方でステージ上からも、観客たちの空気をつかみかねて、やりづらさもあったろう。
今回出演の4グループの中で、一番S-Qtyがちゃんと歌えていた(歌っていた)。S-Qtyの中でもノリのいい曲、そしてご当地ソングでもある「ぼっけぇ!おかやま!!」で前方の客がほとんど立ち、ようやく会場の雰囲気があったまってきたか(別にそれまでS-Qtyがダメだったわけじゃない、グループとしてのパフォーマンスはとてもよかった)。
続いて香川のアイドル、きみともキャンディ。ここできみとものファンと見られる一群がステージ前(最前列の前のスペース)に押し寄せる。もちろんこれはルール違反で、開演前にも「その場で立つのはいいけど、席から離れるのはダメ」というアナウンスがなされていた。一方で、オールスタンディングの現場であれば、推しのアイドルの出演ごとにそのファンが最前に移動していく光景は見慣れたものだ。このイベントに関しては、正直会場内にファンの動静を監視・管理するスタッフが手薄であったこと(だって最前付近に全然係員とかいないし)、またそうしたアイドル現場の文化への理解がスタッフに不足していたかもしれないことから、ステージ前の空間にファンが押し寄せることは、その場の流れ的に止めようがなかったと思える。アイドル現場では、運営側が求めたい規範・ルールと、ファンが自発的にファン同士の中で空気を読みながら(あるいはあまり読まずに)現場にふさわしいと思える行いをしていく営みに齟齬が出ることがある。だから、単に運営サイドのルールをファンが無視したという理由のみによって、その現場がダメであったと主張するのは安易過ぎる(もちろんファンが好き勝手やっていいというわけでもない)。
きみともキャンディ、まあ、かわいいです。小5〜高2までいるようだが、小学生が大人びていて、年齢差をあまり感じない。新曲の衣装はチアリーダー的で、他のヲタさん曰くドラえもんみたいな色合いの衣装。振り付けもかわいくて、アイドルとして他と比べても大きく見劣りはしない。メンバー「ももか」さんの生誕祭ということで、開場前にファンの方がサイリウムを配布していた。発光のタイミングの指示がざっくりしていたが、祭りは無事成功、メンバーも喜んでいた。
3番目に愛媛のアイドル、ひめキュンフルーツ缶。メンバーが新たに2人脱退して間もないタイミングのイベントとなったわけだが、結果としてそのパフォーマンスは圧倒的だった。この場合、個々にダンスがどうのとかはもう言えない。口パクだからどうということも言えない。実際、会場の雰囲気は、ひめキュンのステージによって一変したように感じた。比喩的に言うなら、ブレーキのきかない車に乗せられている感じだ。すさまじいスピードで走る車のハンドルを握らされて、すぐに目の前に迫ってくるコーナーに息つく暇もなくハンドルを切らなくてはいけない。そんな感じで、ひめキュンのメンバーのダンスにつられて自分も体を動かした、というか、そうしなくてはいけないような、これは心地よい高速/拘束感だった。自分の意志と関係なく、振りコピをしてしまう。この、せねばならぬ感じは、逆説的だがとても「自由」だった。幸せだった。ついでみたいに言うけど、ひめキュンのメンバー全員すごくかわいいよね、とくにほのたんね。
最後にSakuLove。SakuLoveはこの日初めて見て、ギャルっぽい子からちっちゃい子までいて面白いなと思ったのだが、いろいろ急な展開があった。まず、4月以降活動が未定となっていた「津山のご当地アイドルSakuLove」が、3月いっぱいで解散することが発表され、会場が異様な雰囲気となる。ところが、4月以降は「美作国のご当地アイドル」として活動するという発表があり、そんなオチかい、と思ったら、それにともなって現行の7人のうち4人が卒業するという衝撃の発表がなされた。で、その発表がされた時に、ステージ上には3人のメンバーしかいなくて、あれ、結局誰が卒業するんだろうという疑問とショックが綯い交ぜになっていまひとつ気持ちが定まらない。自分はSakuLove初見だから、思い入れがない分、傍観者的な気分もあって、なおさら気持ちの整理がつかない。
卒業ソング「ほんならね」はSakuLoveのこの一年を知っているファンなら、感情移入して泣ける曲だろう。
4組の競演のイベントだったからアンコールはないかと思ったら、SakuLoveが出てきた。卒業する4人のメンバーから挨拶があった。大方前向きな理由で辞めていくようでよかった。本格的に芸能活動をするためとか、女優の夢があるとか、ダンサーになりたいとか。しかしここで改めて、地方アイドルにい続けながら将来像を描いていくのは難しいのだなとも思う。先日AKBの映画を見て考えたことだが、アイドル活動と将来像をうまく接続していくことはなかなかに困難な状況だ。一部のファンか関係者には卒業が知らされていたのか、メンバーへの花束の贈呈もあった。
ところで、この大事なメンバーの挨拶をしている間にも問題が発生していて、それは空気を読めないあるファンの存在だ。メンバーの卒業がショックらしく、声をあげて泣き、メンバーの挨拶中も大きな声で「かわいそうに!」とか「やめないで下さい!」と泣き喚いて、会場の空気を壊しかけた。あまりにステージ前にせり出してきたので、強そうなファンの方が下がらせるも、その後も彼を見てクスクス笑うファンをにらんで怒りを露わにするなど、何か起きそうな雰囲気。ただここで言いたいのは、彼に対する非難ではない。そういう人もいてしまうのは仕方ないのであって、アイドル現場に来るなと言うことはできない。ともかく痛感するのは、会場の空気は簡単に壊せるということだ。特に、声で簡単に壊せる(だからMIXなども、注意をしてすべきだと思うことがある)。
卒業するメンバーの涙ながらの挨拶に対する感情、空気を壊すファンへの怒り、あるいは苦笑(自分は怒りよりも苦笑)、その空気を壊すファンを他のファンがどう思っているのだろうという心配、そしてそのもめごとにアイドルメンバーも気づいてしまっているだろうことに関する気まずさ…。残念ながら、卒業の儀式に求めたい会場の統一感はなく、いろいろに気持ちが拡散してしまった。
メンバーがはけた後に流れたSakuLoveの一年の活動を振り返るビデオはとてもよくできていた。たった一年ですらこれだけ濃密な体験があるのだ。司会が最後をしめて、イベントは終わった。結果的に、いろんな感情が呼び起こされて、訳の分からない体験で、時間が長く感じた。いろいろ問題点も書いたが、特に後半にかけての会場の盛り上がりはすごかったし、楽しかった。いろいろ考えさせられるイベントだったし、本当に来てよかった。
イベント後の物販、S-QtyのCDを買ってサインと握手をしてもらう。物販は人が多く、特にSakuLoveは列が長くてあきらめかけていたが、物販終了前にギリギリで「ほんならね」を購入でき、サインもしてもらった。物販が終わる頃には、すっかり日も暮れた。
アイドルファンのコアな層の中で、地方アイドルがいまブームだとして、津山のイベントに300人入ったことが、成功なのかどうかも定かでない。津山文化センターという屋内の会場でやることが、地方アイドルのイベントとしてふさわしかったのかどうかも分からない。またSakuLoveの卒業に見るように、この現象に明るい未来が待っているかどうかも定かでない。しかしともあれ、楽しいイベントだった。今後も北海道から九州まで、地方アイドルのイベントは続きそうである。その動向にはアイドルファンとして注視していきたい。


▲物販でのSakuLoveのメンバー。なんだかんだあっても笑顔を見せてくれる。救われる。