AKBN 0 5thライブ 「私達の持ち歌がいくつかできました!スペシャル」(考察編)

前回はライブの内容をざっと振り返った。今回はライブ後の「お知らせ」の件を確認し、全体的な考察も加えたい。


最後の曲「アイドルバカ一代」が終わった後、歌とダンスの最新ランキングが発表され、最終的にランキング最下位になったメンバーはセカンドシングルのメンバーから外れることも同時に発表された。
さて、これで終わりと思いきや、というかまあ終わらないだろうという大方の予想通り、責任者安藤氏から司会の女性に封筒が渡される。いつもの演出。封筒には「残念なお知らせ」とある。詳しい内容は以下の公式ブログを参照のこと。
http://ameblo.jp/akbn0/entry-10816230051.html
簡単に言うと、以下のことが発表された。
1.会社にうそをついたメンバー10名のイベント欠場
2.メンバー一名のモチベーション低下による活動休止
3.メンバー一名の怠慢行為への警告
4.新メンバー一名、2度目のレッスン遅刻でイベント欠場
5.以上から、一旦デビューの話は白紙に戻す。


「お知らせ」はいつものこととは言え、次から次へと厳しい裁定が発表され、会場は次第に悲鳴に包まれた。「もうやめてー!」という声、あるいは、「安藤出て来い!(安藤は総責任者の名)」「何様じゃコラ!」という怒号(前方のこわそうなヲタがずっと叫んでいた)がこだました。司会の女性はヲタの絶叫にさえぎられながらも何とか封筒の中身を読み終えた。正直自分は何が起きても構わない外部の立場で見ていたけれども、それでも会場の雰囲気はとてもストレスに感じた。それほど会場の雰囲気は異様だった。
発表を受けて、泣き出すメンバーたち。それでもメンバーひとりひとりからあいさつ。モチベーション低下とされたメンバーは、裁定の発表中もときおり笑みも見せていたが、あいさつでも「私推しの人は温かく見守ってください」と悪びれずに言った。あるメンバーは、ファンに向けて「絆と真実だったらどっち取りますか?」と意味深な問いかけをした。
全く収まらない雰囲気のまま、「AKBN〜0!」のコールで終了。握手会へ。握手会はロビーで、だいぶ騒がしくて、なかなか会話が伝わらなかったが、佐藤キャメロンかすみさんには「困った顔」をしてもらう。いろいろもやもやしながら会場を後にした。


いろいろ考えることがある。分けて述べたい。
まず運営サイドの問題だが、今回の「残念なお知らせ」は果たしてどれだけアイドル「AKBN0」に資するものだったのか。自分はデビューイベントとセカンドライブに参加したが、当時は「お知らせ」は「アイドル続行のための試練」の発表であった。それは「AKBN0」というアイドル現象を回していくために必要な仕掛けであっただろう。ところが今回のお知らせは、メンバーのモチベーションが下がっています、メンバーが怠慢です、嘘をつきますという、いわば自ら商品価値を下げる言明を会社側がしたということだ。誰得という印象しかない。そのアイドルを受容する用意が整っている現場において、アイドルを仕掛ける側がアイドルへのネガティブな言明をしてしまうことの意味とは?それも、例えば公に発覚した不祥事への謝罪というのでなく、会社内で起きたもめごとをわざわざ公にするという面倒なことをしている。現場のファンは困惑するしかない。
運営側はこうしたことも含めて「ドキュメンタリー」であると言い、AKBN0に関して「ガラス張りの運営」を目指すとしている。もし会社がこれを本気で目指しているとするなら、それはもはやファンが望むものとはズレてきているのではないかという気もする。AKB48がいくらドキュメンタリー的であったとしても、そこには周到な演出があったり、あるいは起きたことを結果的にうまくAKBの世界へ回収していく仕組みが整っているからよいのである。ではAKBN0の運営サイドが「ガラス張りの運営」と言いながら、実はそう見せかけた高度な演出を施している可能性はどうか?しかしいずれにしても、「モチベーションが下がっているアイドル」という見せ方が、一体後でどううまく収められるというのだろうか。それに、残念ながら、運営サイドのやり方を黙って見守れるほど、ファンは運営サイドを信用していないように見える。信用していない以上、そうした、後で回収するはずの伏線が、回収される前にアイドル自体が崩壊してどうにもならなくなるという事態も想定できる。(こう考えるとガラスのように脆いという意味で「ガラス張りの運営」と言ってるんじゃないかといううがった見方もしたくなる。)
ここでやはり問題だと言わねばならないのは、AKBN0が資金ゼロからどうにかこうにか活動資金を得て生き残らなければならないという地道な活動というものを掲げている一方で、運営サイドとファンが力を合わせてアイドルを支えていこうという体制が全く整っていないことである。ひとりでもファンを獲得してという何が何でも感は、「ドブ板選挙」ならぬ「ドブ板アイドル活動」とでも言いたくなるが、そんな中で運営サイドがアイドルの足を引っ張ってどうする、という空気がある。それでもうまくすれば運営サイドをプロレスのヒール役のように仕立てることもできると思うのだが、全くそうはなっていない。(AKB48の場合、人気が出てくる当初、支配人戸賀崎氏によって、ファンと一緒に運営サイドが盛り上げるという構図がうまく作れていたように思う。)
今回のライブでもいくらでも工夫の余地はあったように思う。例えば、AKBN0のオリジナル曲はファンの手によって提供されていて、実際にそのファンが会場にも来ているのだから、そこだけを見ればファンがアイドルの活動を直接支えているという点でとても理想的な関係に思える。「オトメ☆コーポレーション」にしても、「ももいろクローバー」にしても、それなりにうまく回せているところは運営サイドとファンの間の垣根が低いように思うし、一緒にアイドルを支えていきましょうという了解がある。それでこそ外のアイドルと競争していけると思うのだが、今のところAKBN0はその関係性作りに完全に失敗している。



メンバーについて。
AKBN0はおそらく給料も基本的にはもらえずに活動しているのだと思うが(何しろ活動資金ゼロからと言っているくらいだから)、それでもアイドルとして売れることを目指して頑張っている。そこでのモチベーションの維持は決して容易ではないだろう。
今回モチベーション低下とされたメンバーは、「お知らせ」が読み上げられている間、ステージ上で明らかにやる気が無かったし、ファンの視線を意識したアイドルとしての見せ方もなっていないように見えた(あれが全て何らかの演出に基づく演技だったら尊敬する)。また他のメンバーは前述したように、ファンに向けて「絆と真実だったらどっち取りますか?」と問いかけたが、これも「会社との内輪もめを相談する人」になってしまっていて、これをアイドルとして受容するのはかなり難しいと感じた。
運営サイドからすれば、こうした振る舞いも「ドキュメンタリー」だと言うのだろうが、どうしても言いたくなるのは「ドキュメンタリー」と「ただの垂れ流し」はやはり違うのではないかということだ。いや、その両者に違いなどないというのなら、今回見たイベントは、3000円払った割には「質の悪い、楽しめないドキュメンタリー作品」であったと言うほかない。
運営サイドも、AKBN0のメンバーも、どういう風に「アイドル―ファン関係」を構築すればよいのかという視点に薄いのではないかと思わざるをえない。確かに、なんでも「これがアイドルなんです、AKBN0なんです」と言い張ることはできる。けれども、そのことと、それが多くのファンに受け入れられるかということとは当然全く違うのだ。



ファンについて。
一般的な傾向として、ファン層が若いと現場は荒れやすい。しかしそれにしても、これほど統一感のない現場は初めてだった。正直、応援する気があるのかと思うほどであった。もちろん、少数の態度の悪いファンを取り上げて全体かのように言うのはフェアではない。しかしそれにしても、会場全体が醸す雰囲気、それに対しての自分の感覚というのはある程度信用してよいように思う。要は、それぞれの観客が、アイドルとの1対1の関係性、または親しいファン同士の世界に閉じていて、「AKBN0ファン」という想像の共同体のようなものを前提とできていないような感覚(自分は5列目だったが、後方の席だったらまた印象が違った可能性はある)。好きなメンバーがいるから来たけど、自分たちは好き勝手やります、という雰囲気がライブ全体を通して感じられた(初めて来た観客の中にはそうした状況にうんざりした人も少なからずいただろう)。前説も、司会も、アイドルの話も聞かないという状態に驚いた。自分の席のそばの通路では、関係ない席から出てきたファンが思う存分ヲタ芸を打ち、通路に仰向けに寝っころがったり、仲間とふざけあったりしていたのだ。


以上から考えると、現状、運営サイド・メンバー・ファンが相互に悪影響を与えているのではないか、このままいくと派手に崩壊するのではないかという予想をどうしてもしてしまう。
しかし一方で、ファンの連帯も次第に形成されつつあるようだ。会場では「AKBN0後援会」とプリントされたTシャツを多く見かけた。「AKBN後援会」はどうやらアメブロを中心に活動をしているようだ。後援会の中心メンバーと思われるブログをいくつか見てみたが、今回の「お知らせ」の件をどうとらえるか、どう応援していったらよいかという議論がなされていて興味深い。またAKBN0はライブではないイベントで「デート券」の販売もしていて話題となっているが、あるファンがデート券の独占をするなどといった問題も起きているらしく、アイドル現場におけるファン活動の生々しさが伝わってきて、こちらの方が良質のドキュメンタリー足りうるのではないかという少し皮肉な考えも起こる。ただとにかくこうしたファンの議論が現場を変えていくことは間違いない。アイドルへのファンの愛情を、ファンブログからははっきりと感じることが出来た。



セカンドライブから久々に参加したAKBN0の5thライブは、なんとも後味の悪いものになった。どうしても自分はこの現場を突き放して見てしまうが、その視点からすれば、アイドル現象がいろいろな要素の相互作用や、バランスによってできていることを、(あまりうまくいっていない例によって)可視化される面白さはある。崩壊しそうで崩壊しないAKBN0(その危うさこそ「ガラス張り」と言ってもよいのかもしれない)、もう現場は3回行っているのだから、自分も立派なファンである。今後の動きにも注目していきたい。
(4日夜にテレビ朝日の番組でAKBN0が取り上げられるようである。どういった描かれ方がされるのか注目している。)