「要員」というシステム

「要員」という言葉がある。定義がしっかりされているものなのかは分からない。
2、3年前からだろうか、ハロー!プロジェクトのグループ(娘。、Berryz工房℃-ute等)がリリースするCDに応募抽選参加シリアルナンバーカードが封入されるようになった。携帯サイトにアクセスして、英字12字のコードを入力して抽選に参加するというものだ(ちなみにこの間参加した可憐Girl'sイベも、ハローと同じ会社のシステムを利用していた→マーケット情報提供システム「p4you.net」株式会社プラネット)。重要なポイントは、同一公演に複数のコードで応募でき、応募数が多いほど当選確率が高まるということ、(ただし、当然のことながら携帯端末一つにつき、同一公演に複数当選することはない)、ということだ。
例えば、ぼくの場合、昨年夏の℃-ute江戸の手毬唄Ⅱ」イベの時は、大阪昼・夜、そして有明昼・夜という、お兄さんが参加できるMAX4公演のうち、大阪昼と夜に2発、有明夜に7発投入し、結果大阪昼と有明夜に当選した。競争率を考慮しながら、どの公演に何発投入すれば当選確率が高まるか読みながらの応募となる(今にしてみれば有明に投入しすぎたか)。
こうした抽選イベントの場合、本当に、確実にイベントに当選したければ、大量にCDを買い、大量に応募するより他はない。ここで、そうした「歪んだ」ビジネスモデルの批判は今さらしない。そもそもアイドル産業に健全さを求める心性こそむしろ不自然な気もする。ともかくそれは置いておいて、イベントに行きたいヲタであれば大量に投資して当選を勝ち取りたいところである。ところで、ぼくは今ひとつよく分からないのだが、ヲタの中には携帯端末を複数所有していて、複数の端末から応募する人がいる。確率論的には、一つの端末で応募しようが、複数の端末で応募しようが期待値は同じだけれども、おそらく仲間内で出来るだけ当選を確保しようとするならば、複数の端末からの応募の方がいいと判断するのだろう。…あるいは、ここで「要員」という考え方が出てくる。
こうしたイベントのもう一つのポイントは、ヲタの席位置が、入場の際にランダムに配布されるチケットで決定されるため、当日まで「自力」で良席を手に入れることが出来ない、ということだ(「自力」という書き方をするのは、ライブチケットであれば、基本的には金さえ出せば良席は手に入れられる、という現実があるからだ)。であれば、方法としては、入ってから、良席のチケットと交換するほかはない。例えば、Berryz工房℃-uteのヲタが1人ずついて、それぞれが他方のグループのイベントにも顔を出す場合、2人で入場して、良席を、より推している(熱心なほうの)ヲタに譲る、という考え方は自然なものである。事実、こうした仲間内での「要員」というあり方は存在する。これをさらに合理化、システム化したのが、オークションを利用した「要員」のシステムだ。改めて確認すると、「要員」とはこのように、抽選イベントで良席を手に入れる期待値を高めるために確保しておく人員のことである、たぶん。抽選イベントに落選したヲタを対象に、「良席であれば交換すること」を条件にイベント参加の権利を売るのだ。(ぼくの記憶では、NHK「POP JAM」観覧ハガキにおいてもこうした出品形態は存在した)
仮に自分の他に9人の「要員」がいたとし、先日の横浜ブリッツのキャパを800名とした場合、ぼくの確率計算が間違ってなければ(間違ってたら鋭く指摘してほしいのだが)、期待値としては、前から801/11番目の席にはありつけるという計算である(72.8番目…大体3列目中央寄り程度の席は期待できるということ)。これは確かにおいしい。
金銭的にうまみがあるかどうかは別として、良席を手に入れたければ、大金を投入してイベントというシステムを自分に都合のいいように操作していくことは極めて合理的な戦略である。オークションのライブチケットににしても、大量に確保して売りさばいていく転売師という存在がいるように、ヲタの一部はシステムの裏を巧妙につくことでおいしい思いをしている。
ところで、こうした動きに関して、主催者側は黙認をしているとしか思えない。メール転送や名義変更に関して実際にはチェックを入れていないし、身分証明書の提示も求めてはいない。メールシステム上の問題でチェックできないのか、それとも単なる怠慢なのかは分からないが、実質、誰が入るかのチェックはしていない。おそらく、あくまで主眼はCDの売上にあるために、公正なイベント運営への注力はされないというのが現状ではないかとぼくは思っている。というよりも、むしろ不公正な今のイベント運営形態の方が、売上はいいのではなかろうか。これは多分に経済学の領域な気がするが、単純に考えて、金を持っているヲタが要員枠を確保しようと大量にCDを買うことにより、イベント当選の確率は低くなり、そのことによって、他のヲタもCDを複数確保していかざるを得ない、という構造が出来ているように思う(当たらないから買わないでいいや、と思うヲタがどれほどいるだろうか)。それでも当選できなかったヲタはしぶしぶ要員枠を手に入れるという、持てる者と持たざる者のシビアな格差社会の様相が見えるようでなんとも言えない気分になる。
とは言え、ぼくはこうした構造全体を批判する気もないし、ぼくとてこの構造に一枚噛んでいるのだから(まあ複数買っちゃってる身だから)批判する筋合いはない。ただただ、それぞれがそれぞれの欲望のもとに動いていくこうした一連のダイナミズムに圧倒される思いがするだけだ。