教育テレビ「一期一会 キミにききたい!」

木曜に再放送があったので見ました。「趣味を生きがいにする話@東京・ヲタ芸ライフ」 。
ヲタ芸」という語はほとんど誘い文句みたいなもので、アイドルのイベントを自ら運営しているヲタと、就活を前に悩む青年との対話の物語でした。だからヲタ芸うんぬんということの感想はあまり書けない。せいぜい「腕の伸び切っていないロマンスは美しくない」という美学を語るにとどまる。
そんなことよりなにより、ヲタの実存ということに関して、深い問題提起をしてくれている番組であった。「仕事にそのエネルギーを使えばいいのに」なんていうのはヲタじゃない立場からすれば当然の疑問である。それに対して、「好きなものが仕事であるかないかに大差があるのか」というこれまた当然の返答をする。アイドルイベントの現場を通し、「仕事を生きがいにしたい、何も行動していない人間」と、「趣味を生きがいにし、行動を起こす人間」という対比がなされる。
ここまでヲタの実存に迫る番組はなかなか見たことがない。教育テレビは、教育テレビらしく、ヲタ芸の解説のナレーションをも淡々と行い、できるだけバイアスをかけないように番組を作ろうとしているように思えた。最終的に、ヲタの生き方を肯定するような作りであったわけだが、もちろん肯定するか否定するかということは大きな問題ではなくて、「ヲタ芸」という表層に惑わされることなく、生き方に切り込んだ点がすばらしい。
民放の多くのヲタ芸番組は、ヲタ芸の表層的な側面にばかり気を取られて、もちろんそれ自体はバカな営みであったとしても、同時にヲタの実存的な問題も孕むものだ、という認識は全くない。まああったとしても、そんな描き方よりはバラエティ仕立てにした方が数字が取れるというものだ。ヲタ芸に対して「奇異なるもの」から「バカなヲタが必死になっているけれど基本的には無害なもの」という安全なレッテルへの貼りかえをさせて、とりあえず安心させて笑わせて、自分はそんなヲタよりバカじゃないという自己正当化のための生け贄にヲタを貶めるような、そんな薄っぺらな番組の数々。正体不明の症状に、病院で病名をつけてもらって一安心しているような人たちばかりですか。(とは言え、社会をうまく成り立たせるためにはヲタはあくまで少数者にとどまらせておく必要もあり、ある程度は「社会」からヲタへの圧力というのも必要だという思いも自分の中にはある。)
そんな中での教育テレビ。ヲタ芸への先入観を持たずに、ヲタの生き方を描いたがゆえに、逆に自分の心にも強く響いた。これが民放でのネタ化されたヲタ芸番組だったら、「そうじゃねえだろ!」と突っぱねられるんだけど、「ヲタを生きがいにしています」と差し出されると、「自分って」という問いから逃げられない。それをネタにして笑うほど、僕はヲタを相対化できない。それほどには僕はヲタを生きがいにしているわけだ。じゃあどうしますか。
さしあたってまず行動しろ、というのは、先も見えない短い人生の中で正しい教えと言える。「夢の世界」「ピンクの世界」を守るために。どうなるか分かりませんが、8月の「モーニング娘。学会」にヲタの実存をかけて臨みます。