道重は滑稽に本気で踊る

山梨に行くのは意外と時間がかかる。
駅からも時間がかかるが、同じ方向に向かう同志が多いので道に迷わない。
県民文化ホールのトイレで、ヲタがうちわを小便器の前のちょっとした段差にたてかけて、用を足したらその手でうちわを持っていく。…それでもいいのかもしれないと思う。
館内放送のおばちゃんが、意図的にこうしゃべっている。
「…モーニング娘。コンサートツアー2007、セクスィーエイトビートにお越しいただきまして…」…昼も夜も、徹底されている。スィー。よっすぃー、せくすぃー、みっつぃー。


さて、ライブですが、セットリストは前もって見て、あまり面白くないという印象。やはり昨年のセクシーボーイとレインボーピンクインパクトを欠くのは痛い、と思いながら臨む。
1.元気+ イントロで吉澤が耳に手を当てて、神妙な顔をしてこっちを見つめる。「優しい声が聞こえる〜 優しいその声が」 ……聞こえるの、ヲタの轟のみ、っていうズレがたまらなくて、ずっとおかしくて笑ってしまった。ライブの入りとしては適切だ。ライブに対する僕の心配はここである程度解消された。
7.シャニムニ パラダイス ライブで振りを見る前に曲の評価を決定してしまうことはできないなあと思う。「遮二無二 LET´S GO」のところで、田中の細い肢体が、ひじやひざがカクカク動いているさまは、上から糸で吊り下げられたあやつり人形だった。けれども、その徹底ぶりがむしろアイドル自身の自律性を感じさせるというのは、昨年のレインボーピンクと同じ構図。動きをデフォルメすることで、かえって「私達はあやつり人形じゃないよ」という証明を行っているように思わせる。そこにアイドルの強さを感じた。
8.ハッピー☆彡 久住がトップアイドルにちゃんと見える。はんぱねー。
9.春 ビューティフル エブリディ サビ前の一瞬、SKi(制服向上委員会)のある曲が脳裏に浮かぶ。
12.宝の箱 昨年に比べてもちろん物足りないのは確認した上で、これはこれだよなと思う。特に道重の虚構化が激しい。人形。ついに僕はWとの比較を始めた。
15.未来の太陽セカイ系」という言葉の意味を僕は細かく知らない。けれども試しに、娘。の歌詞は「セカイ系」じゃないのかい、と仮に言ってみたくなる。自分達の内輪世界を世界と短絡してしまうことが「セカイ系」の特徴であるなら、アイドル歌謡は「セカイ系」の構造をとりやすいのではないか。「みんなでなら 変えられそう この地球の未来を」と歌うときの「みんな」は県民文化ホールにしかいない。「クラス」「家族」は出てくるけれども、アイドル歌謡で、「社会」という言葉は政治性を帯びすぎるから使いにくい。結果、狭い内輪空間に閉じた世界観(メリピンのような「年とりたくない」の世界)か、「われわれ」からいきなり世界全体へと飛躍する世界観(ラブマやレインボー7の時は「日本」という枠だった)のどちらかをとることになる。それにしても、最近の娘。の歌詞を見よ。「未来」「平和」「地球」のオンパレードではないか。「元気+」でも、あからさまに「地球に流れる素敵な空気 ぐっすり眠れる平和が好き」という歌詞。こういう、世界への短絡(日本をも超えた「世界」「地球」への短絡)が初めて出てきたのはおよそ「恋レボ」くらいからだろうと思う。そして「ザ☆ピース!」の歌詞がすごかった。「青春の1ページって、地球の歴史からすると どれくらいなんだろう? あ〜いとしいあの人 お昼ごはんなに食べたんだろう?」。このような世界への飛躍が当時は驚くべきものだったけれども、最近の娘。では恒常化している。(あとで細かく書かないといけないなあ。娘。の歌詞には「歴史」も出てくるから、単に世界への短絡とは言い切れない部分もある。)
22.青空がいつまでも続くような未来であれ! 青空トレインを娘。から煽られることを知らずにいた。正直、それまで隣の席のヲタにむかついていたのだが、肩に手をやったらもうしょうがないから仲間同士みたいになってしまう。娘。がヲタの横の連帯に手を貸すということが僕は画期的だと思う。青空トレインが文化ホールの壁をぶち破って外の世界を暴走したらどんだけ痛快だろうと思う。だけど、まだ、青空のくせに屋内にとどまっている。ただ、これって自閉したヲタの自己満足じゃない可能性もあるんじゃないのかなあ。
トレインの強制力については嫌がるヲタもいるんだろうと思う。夜には美貴様が「やらないほうがはずかしいぞ」という優しい暴力を行使していた。強い力だ。こういう上からの命令をヲタの倫理化にうまく使っていけないものか。アイドルが規範を提示し、ヲタに従わせる、ヲタの倫理化戦略。そのための、今回はTRAININGということでよろしいか。


相変わらずヲタ世界への理解が見られる。
①「ここいる」のときのビジョンに、腕を突き上げる人影とともに「オイッオイッオイッ」というテロップが出る。
②「MC GAKI」のVTRで、ラジオネームが「ウリャホイウリャホイ」さんだった。
③追い出し曲がハピサマだった。完全にヲタ芸を誘発させている。ここでヲタ芸をしてね、という場を設けている気すらする。

…GWにもう一度娘。紺を行く気になりました。