岡山〜四国 地方アイドル巡礼記 (愛媛編)

8月3日17時50分ほど、松山市駅着。ひめキュンのイベントは18時から行われる。それまで、松山市駅東側の銀天街を見回ることにする。「銀天街WITHひめキュン」ということで、銀天街のいたるところにポスターが貼られている。また銀天街のアーケードの頭上に設けられたモニターでは「ひめキュンフルーツ缶」のPV(おそらく「恋のプリズン」)も流れていた。
銀天街のCDショップで、ひめキュンのCDと写真集「ひめキュン写真缶」を購入。2000円以上の購入だったので、キャンペーン企画として、「松山慕情」という特典CDがついてきた(参照:http://himekyun.jp/pc/disco.html#bojo)。また、天然石のお店でも、「ひめキュンブレス」なるものが販売されていた。地元商店街と地元アイドルのコラボが、割と本格的に展開されている。(たしか日本経済新聞8月8日付けの記事においても、ご当地アイドルの中でひめキュンが紹介されていた。)


↑ひめキュンブレスを売るお店



ところで、倉敷の商店街と松山の銀天街を見て気づいたのだが、どちらも子供の手による作品が掲示されていた。倉敷では商店街の至るところに子供の習字作品が展示されていた。松山の銀天街では、子供の手によると思われる俳句・川柳のようなものが飾ってあった(写真を撮っておけばよかった)。金光教の木札でもそうだが、地域コミュニティにおける子供の重要性というか、重視というものを感じる。
空腹に耐え切れず軽く食事をしたら17時30分。銀天街からイベント会場のTSUTAYA朝生田店まで歩く。この日はひたすら歩きまくっている。かなり足に疲労がきていた。17時52分、会場到着。70名ほどの観客。その中でコアなファンは40名ほどか。着座は3列。その後ろに立ち見客。自分の左にいた常連と見られるおじさんがはしゃいで知り合いとしゃべっていた。客は全体として年齢層まずます高め。ただ地元の女子高生とか、おばさんなどもいて、幅は広い。
18時開演。ひめキュンは白い衣装。食事の時に写真集を見て、河野穂乃花(ほのたん)推しでいくことにした(℃-uteなっきぃに似ているから)。「8分の1のブレス」、「ひまわり」、「Loop&Loop」。地元のイベントで、特に観光客を相手にしているわけでもないイベントのため、ご当地ソング的なものは歌わない。ひめキュンフルーツ缶の成功は、地元商店街とコラボして地元経済の活性化に寄与しながらも、楽曲自体のクオリティを保ち、下手をすればダサくなりがちで「田舎感」が出てしまうことを回避しているところか。特に「Loop&Loop」は名曲だ。少し歌詞を引用してみる。


1000%ループする 事だらけの世界で
君は君を忘れていくけれど
1000%ループする 事だらけの世界で
巡りあった奇跡がループされて


1000%ループする 事だらけの世界で
君は君を生かし殺しもするけど
1000%ループする 事だらけの世界で
ループされる奇跡の中へ


全てに再帰性が際限なく働いてしまう世界の中で、「自分」を見失ってしまう危険。「巡りあった奇跡がループされて」のところは、アイドルとファンの悲しい関係にも読める。それらに対しての悲哀を歌いながらも、最終的には希望も見出そうとする。そんな曲と見た。
ミニライブ後のイベントは、3分間のトーク&サイン会。希望のメンバー一人を指名してのイベントだ。3分の砂時計をひっくり返して、砂が落ち切るまでトークできる。このイベント形態、自分の参加したアイドルイベントの中ではたとえば「ぱすぽ☆」の個別握手と同様、人気のあるメンバーのところには列ができ、相対的に人気のないメンバーは暇になる。人気のメンバーとのトークを希望するファンは待たされ、そうでないファンは後ろに並んでいてもどんどん先にイベントに参加することになる。この日のイベントは、CDの特典がほのたんのジャケットであることもあり、ほのたん人気が高かった。こうしたイベントは如実に人気差が見えるため、アイドルメンバーにとってもファンにとっても、運営側にとっても難しいところがあると思うのだが、現場のスタッフはそれを意識しながらも、ネタ的に利用してイベントの雰囲気をつくっていった。「(メンバーの)○○はすぐにはいれまーす」、「○○がさびしそうにしていまーす」。ぱすぽでもそうだが、暇になってしまうメンバー同士がおしゃべりしたり、その場の雰囲気はなごやか(もちろん人気に対する意識はメンバーの中に確かにあるだろうが)。
ほのたんと3分間しゃべって思ったのは、そもそも握手会が苦手で、さらに高速イベントに慣れきった自分に3分は長いということだ。ほのたんに「他のアイドルに負けないところ」を聞いたら、「みんなかわいい」と言ってくれました。確かにビジュアル面でも一定のクオリティがあるとは思う。CDジャケットにサインしてもらい、握手をして終わる。

↑ほのたん

↑サインしてもらったCDジャケット

夕食は近くの松山イオンで。マンゴーパフェも食べるが、まあ普通だ。



この旅行を始める前、「地方」というものを感じたくて旅行を計画したのだが、旅行をして気づいた点がいくつかある。ひとつは、首都圏に住んでいる自分は、普段は首都圏以外の地方に対して優越感を抱くどころか、実は視野にすら入っていないということ。東京を中心とする首都圏では、アイドルイベントは数え切れないほど開催されている。どのイベントに行こうか迷うほどだが、地方はそうではない。そもそも現場の数も、アイドルの数も限られている。そうした可能性について、普段ほとんど意識をしていない。これはアイドルを考えるにあたって、かなり危険なバイアスなのではないか、と思ったのだ。
もうひとつは、地方が何をもって地方なのかがよく分からないということだ。地方都市の風景は、決して首都圏のそれと大きく離れていない。「ファスト風土」と言われているように、地方にある店はコンビニ、TSUTAYA、イオン、ファーストフード店…と、地方の風景も画一化しているように、確かに思えた。一方で地方固有と思われる歴史性を備えたと思われる都市(たとえば倉敷)には、意図的な演出をそこに読み取ってしまう。地方のアイデンティティってなんなんだろう、と思ってしまったのだ。岡山のアイドル「S-Qty」も岡山岡山歌っていたけれども、そこがそこである意味を、地方はそれに言及することで獲得している節すらある。
地方もアイドルも、そして多分我々自身も、アイデンティティの獲得を何か権威付けられたものに依拠して獲得することは不可能な時代になっているのかもしれない。そこで獲得されるアイデンティティは、外部の世界との折衝、影響関係の中で選択されたものでしかないという点で絶対的でないし、どうしても確信を持てるものではない。だからともかく自分が選択したアイデンティティを常に確認、表明しておかなければならない。
また「Loop&Loop」の歌詞が頭を巡る。