3-3.アイドルをどう信じるか

「スミレ16歳!」も来週が最終回だそうです。
さて、人形と人間という2つの表象によって我々の立ち位置の脆弱さを示してくれる「スミレ16歳!」だが、第9話・第10話では人形愛が主題となってくる。いよいよもって重要である。第9話
関東最強と呼ばれる男・アキラは実は生粋のドールマニアで、四谷スミレに恋をしてしまう。このアキラの、四谷スミレの愛し方を見ていかなければならない。改めて確認をするが、四谷スミレはオヤジが操っている人形である。アキラはその人形の可愛さに惚れているわけだが、同時に、その人形の造型・素材や、オヤジの人形操作に感嘆もする。
つまり、これをアイドルに置き換えるならば、アイドルの表象・記号――虚構的側面――を愛しながらも、アイドルの身体的、現実的側面に対する敬意もある。アイドルを応援する、という場合、こうした2つの側面へのベタな視線(下図における①と③)は確保されなくてはならない。

【ベタ視線の一例】
視線①オヤジがんばってる!
視線③四谷スミレを愛してる

【ネタ視線の一例】
視線②人形じゃねーか!
視線④オヤジなどいない!


四谷スミレをめぐる視線がこうした形で4つに分かれ、各登場人物や各場面によってこの4つの視線が絡み合うことになる。
例えばスミレの友人である大山蓮華は、スミレを認めた後は③の視線が中心となって過ごしていくが、アキラに振られ、アキラがスミレに惚れていることを知った後、スミレに「スミレちゃんなんてただの人形じゃない!」(視線②)と言い放つ。
周囲の生徒達は、はじめ「人形じゃねーか」(視線②)と思っていたが、不良に殴られても頑張っているオヤジを見て、「頑張れオヤジ」(視線①)となり、最終的には四谷スミレを認めてしまう(視線③)。
学園の理事長は、はじめから四谷スミレを生徒と認めている(視線③)稀有な存在だが、(第2話で)オヤジが殴られていても、「スミレくんはまだまったくの無傷じゃないか!」とオヤジの存在を認めない(視線④)。
現実と虚構、身体性と記号性が絡み合う現象において、こうした視線の錯綜は避けられない。だが、そのバランス。
凡庸な結論にするならば、その場その場に応じて視線を使い分けられるようにしよう、というアイドルリテラシーを提唱して終わりである。
常にベタ視線だけでアイドル現象に参与していくことは難しい。時には上から下目線でアイドルを消費することもあろう。だけれども、アイドルの実存が危機を迎えるとき、僕らは安易に視線①〜④を選択できないはずだ。夏焼の件にしても、視線①をもって対するか(交際くらいしたってOKとか)、視線④をもって対するか(そんなの信じないよとか)、ヲタのアイデンティティを問われたはずだ。アイドルを守る――必ずしも常にアイドルを大切にするというのではなくて、アイドルができるだけよい状態でアイドルでいつづけてもらう――ための、視線の操作が僕らにも求められている。「スミレ16歳!」を見て、改めてそう思う。
ところで、こうした虚構―現実の二項対立というのは同時にいかにもくだらないようにも思える。アイドルを見る、応援する、という時に、そうしたことは意識されない。ベタ視線とは絶対的視線であって、他の可能性・選択肢が意識されない。となると、上の図に従ってアイドル現象を捕捉するとき、我々はアイドルをアイドルとして全て包み込むような視線を確保できないのではないかということが気になるところである。
「スミレ16歳!」のクライマックスシーンにその問題の答えが提示されているように思える。オヤジが殴られながらも、ドラマの主題となるメッセージをスミレを介して伝えるとき、そのクライマックスシーンではスミレ役の女優に、オヤジ役の俳優の声がかぶさって、二人同時に話しているような演出がなされる。いつもほとんど目を開かないオヤジがかっと目を見開いてしゃべり始める(例えば第2話⇒こちらの動画の1:45あたりからを参照のことhttp://jp.youtube.com/watch?v=zW45nOtaL2E)。どういうことか。ここにおいては、人形(現実)⇔人間(虚構)の二項対立は成立しない。どちらも同時に成り立っている、そういうことがありうるということ。この場面は「現実⇔虚構」の二項対立図式を超えた、「真実」が成立する可能性を示唆しているのではないか。
僕らがアイドルという奇跡に立ち会うとき、例えば古くはタンポポ祭で矢口の涙を見るとき、最近では℃-uteイベで梅田生誕祭での℃-uteメンの涙を見るとき、僕らはアイドル全てと相対している。そう感じる。現実も虚構も取っ払って、そこにアイドルの真実だけがある、という感覚。その奇跡がいとおしい。その瞬間にこそ、アイドルを愛していることを最も実感できる。
その奇跡が信仰の根本にあることは間違いない。それを基盤にしながらも、個々のアイドル現象に対して視線を操作して楽しんでいく。そんな感じでしょうか。