ヲタ芸士

けやき広場1階の広いスペースで、よくテレビにも出ていた顔を含め、十数名のヲタがヲタ関連の曲をリミックスしたものを流してヲタ芸に勤しんでいる。それを目の前にしながらおにぎりを食べた。「ヲタ芸」を一般教養として学んだ一般人の方々が、ヲタが乱舞する様をはなれたところからここぞとばかり携帯で写しては満足げに歩き去る。父は「あれがヲタ芸っつーんだよ、すごいねえ」とさも知ったように娘に語りかけ、外人観光客はステレオタイプの「物珍しそうな顔」を無防備に晒している。
…これがヲタ芸です、ですか。
ヲタ芸師」というのを見なくなった、と思う。そもそもいたのかどうかも知らない。もともとが自分達でたのしんじゃおーぜ、で始まったようなヲタ芸を、職人芸にまで極めるなんて人間が本当にいたかどうか知らない。でも僕は、理想論でもそこにヲタ芸の魅力はあったのだと思う。目の前を見れば、盛り上がるためのひとつの手段としてのヲタ芸が安売りされている。そこで騒いでいた人のどれだけが、「ヲタ芸とは」と語ることができるだろう。形だけ模倣したヲタ芸の美しくなさよ。魂を感じないヲタ芸を見せつけられて、僕はすこしだけ不機嫌だった。もっとすごいもの見せてくれよ。見る価値のあるものと言えば、ムーンライトマトリックスロマンス?を驚嘆すべき角度で打っていたひとりのヲタくらい。
ヲタ芸師はいなくなった。ヲタ芸士ばかりが跋扈している。いやな寂しさだ。別にどうということもない、ジェネレーションギャップのひとつかも知れないのに。