超文学フリマのご報告 〜客を呼ぶということについて〜

『アイドル領域』編集の斧屋です。
本日(4月28日)、幕張メッセにて、超文学フリマが行われました。
ブースにお越しいただいた方、同人誌をご購入いただいた方、また周囲のアイドル関連のブースの方、どうもありがとうございました&お疲れ様でした。
個人誌「斧屋のアイドル−宗教論」もまずまず売れました。会場に足を運べなかった方向けに、Amazonでの販売を予定しています。5月中には販売を開始できるのではないかと思いますので、楽しみにお待ちください。



今回はニコニコ超会議の中の一つのコーナーということで、いつもと客層がかなり異なる、いわばアウェー空間といってもいいものでした。人のよく通る場所にブースがありましたが、きゃぴきゃぴと女子中高生がスルーしてどっかに行きました。ただただその通り道になっていました。はっきり言って、文学フリマ会場は盛り上がってはいなかった。それは薄々予想できることではありました。
ネットと親和性のある、ネットにおいてコミュニティが形成されているという点では同じであっても、ニコ動てきなものと、文学フリマ的なものの文化圏の違いのようなものを痛感することにもなりました。
アイドル論的な意味では、今回のイベントで感じたことは以下の二つです。
まず一点目は、踊ってみた、歌ってみた的なものや初音ミクをはじめとしたボーカロイド、あるいはアイマスについて、これらは十分にアイドル文化と呼べるものである(踊ってみた的なものは、一昔前だったらネットアイドルという呼称が与えられていたかもしれない)にもかかわらず、3次元のアイドルファンである我々(あるいは世代的な問題かもしれない)と断絶していて、少なくとも自分は全くその文化に親しめていないということです。『アイドル領域』でも過去に初音ミク論を寄稿いただいたりしていますが、常にこうしたものを射程に入れながらアイドルを考えていかなければならないと感じた次第です。文学フリマ会場にも、JC・JKたちが足を運んでいった隣のホールからライブで盛り上がる声が聞こえてきて、ああ、これはアイドル現場となんら変わらないじゃないかと思いながら、疎外感も感じておりました。
さて、そこで2点目。現場ということについてですが、超文学フリマの会場は残念ながら現場感にとぼしかったということが言えるでしょう。これが「敗因」ではないかとも思える。他の会場は歌にせよトークにせよダンスにせよ演奏にせよ、ライブ感があったと言える。隣のホールから聞こえてくる歌声がけっして上手でなくても、いまそこでしか聞けないということが、十分にそこに観衆を呼ぶ訴求力として機能している。一方で文学フリマは、もちろんそこでしか基本は買えないものを売っているとしても、7時間という時間幅の中ではいつでも買えるものであり、ライブ感のあるものではないし、そこにコミュニティ(横のつながり)を形成するものでもない。自分も参加した「幹線空港」(http://blog.livedoor.jp/kansenkukou/archives/26016354.html)のブースでは濱野智史さんの握手会が時間限定で行われていたが、こういった営みが、会場全体としては当然弱く、会場全体にどうしても停滞感が出てしまう。これはよく言えばゆったりまったりした空間とも言え、要は、ごく近くに違う文化圏があることで文化的な差異が顕在化し、そしてニコニコ的なものの方が集客力はあるということなのです。けっして文学フリマ的なものが劣るという言い方はできないにせよ、「流行っていない」感は出てしまう。しかし私は文学フリマの空間がとても居心地がいいのです。ただし、今回入場が有料であり、さらに幕張メッセという距離の問題もあり、もしかしたらいつも文学フリマに来ている層が足を運ぶことをためらったことも考えられます。その点も厳しいところではありました。
また、そういった現場感というものは、代替不可能性があるかないかということであり、それは主に身体性によって担保されます。となると、文学フリマにおいても、たとえば書籍という複製可能なものではなく、それに関わる人間の身体ということを押し出して現場感を出す他ないのかもしれません。先述の握手会も、その一つの実践です。
自分は今回個人誌を出して、そこに卒論を収録したこともあり、「アイドルで卒論」相談会ということで、アイドルで卒論を書きたい人の相談に乗るという「現場」を創ろうとしました(過去の即売会でも何らかの企画を実践してきました)。結果、アイドル(あるいは若者文化)で卒論を書こうとしている(あるいは書いた)方と話すことができました。これはとても楽しくうれしいことで、またやはりいまアイドルで卒論を書こうとする人が多いのだということを実感することにもなりました。


売り上げ的には通常の文学フリマよりもだいぶ厳しいものにはなりましたが、いろいろなことを考えさせられるイベントでありました。ある場所で、何かコンテンツを売り物にして人を呼ぶということについて、重要な課題を突きつけられたようにも思います。ただ自分の作りたいもの、読んでほしいものを作って、あとは待っているという状態ではどうにもならない。いかに楽しませるか、いかに期待感をもって会場に足を運んでもらえるか(特に今回文学フリマに慣れていない客も多かったのだから、もっとこちらから営業をかけていく必要があったのではないかといまさら反省しています。結局いつも買っていただいている常連さんにだいぶ売り上げを依存してしまいました)。それは文学フリマに参加する我々への課題でもあり、もちろんアイドルの課題でもあり、つまり今の時代に何かを売るということについての課題なのだと思います。