『NICE IDOL(FAN) MUST PURE!!!』感想

NICE IDOL(FAN) MUST PURE!!! [DVD]

NICE IDOL(FAN) MUST PURE!!! [DVD]

『NICE IDOL(FAN) MUST PURE!!!』、中野ブロードウェイタコシェで購入。
おおむねひととおり鑑賞した上で、これを1500円で買う価値があるかどうかと言われたら、価値はあるだろうと思う。これと同じようなものが存在しないからだ。アマゾンでの売れ行きもよいらしい。他の購入者も、なにかしらの期待感をもって購入したのではないかと思われる。その期待感だけでも1500円は払ってよい金額だ。
アイドルとアイドルファンに関するマガジンをDVDというメディア形式で出す、という選択はやはり斬新だ。コストパフォーマンスの点でもよいのだろうし、アイドルという現象の特性上、動画が見られるのは雑誌の誌面よりも魅力的だ。売れるべくして売れたような気がする。とはいえ、やはり初めてこうしたことに踏み出したことは素晴らしいことだと思う。
ということで、Vol.2以降が楽しみだし、正直自分も何か企画したり、取材したりしたい欲望をそそられる。あるいは、今度コミケで自分たちが出すアイドル同人誌『アイドル領域』にもいずれDVDを添付するとか、どうだろう。
さて、DVD内の企画について見てみると、メジャーなアイドルグループを直接出演させるわけにはいかないため、グラビアアイドルの出演か、またはファンにスポットを当てた企画が中心となっている。これが次号以降どうなるのか興味深い。要は、アイドルファンの中で、掟ポルシェ氏と佐々木会長に匹敵するほど面白い人材がいるのかということだ。佐々木会長にしても、別に話が面白いわけではなく、キャラを消費するような見方になるわけで。有力な人物としては、というか普通に希望として、宇多丸氏のロングインタビューは聞いてみたい。まあこのDVDの企画じゃなくてもいろんなところでしゃべってそうだけど。


以下は問題だと思う点。
「青春アイドルポップス鼎談」にしても、「アイドルオタクインタビュー」にしても気になったのは、結局マスメディアが作りたがるアイドルオタク像を、彼らの語りの中でなぞってしまっているのではないか、という問題だ。これは語り手の問題もあるし、もちろんインタビュアーの誘導の問題もある。たとえば「鼎談」の方では、「アイドルポップスを聴いてヌいたことはある?」という問いに対して、「そんなやついるの?」「聞いたことある?さすがにそんなやばい奴はいない(?)」という凡庸な問答にしかならない。もしかしたらここのくだりはインタビュアーの自虐ネタなのかもしれないが、構図として、鼎談者を、「僕らはそこまではしない、まともです」という立ち位置に持っていくように思う。これはとてもつまらない。自分だったら、「アイドルポップスを聴いてヌく」人間の話をこそ聴きたい。
「オタクインタビュー」の方でも、嫌いなアイドルオタクの話をさせる。あるいは、「臭いアイドルオタクをどう思いますか」という質問を投げかける。当然、彼らは「臭いオタクは最低だ」と語る。これにはだいぶ失望してしまう。つまりここでは、「一般」層に対するマスメディアの報道――「アイドルオタクには気持ち悪い人がいる。それに比べてあなたがた「一般人」はまともでよかったね」式の報道――と同じ構図をなぞるように、結局スケープゴートとしての「臭いアイドルオタク」を用意して、自分たちはそれよりはましなアイドルオタクである、という消極的なアイデンティティの獲得の仕方しか見出すことはできない。そうではなくて、そのアイドルオタクが積極的な仕方で、どのようにアイドルオタク足りえているのか(別にそれを聞き手が肯定的に捉える必要はない)、ということにもっと照準できないのかと思う。これは決定的に聞き手のミスリードだったと思う。もっとアイドルオタクの気持ち悪さ(逆説的なようだが、アイドルオタクの「気持ち悪さ」は必ずしもアイドルの世界内では「悪くない」)を抉り出せなかっただろうか。他のアイドルオタクをディスるのを、別にDVDで見せる必要はないのである。そういう意味では、(いくつか部分的にアイドルオタクの生きざまを感じさせる回答はあったにせよ、)インタビューの大半は期待はずれなものだった。どれだけアイドルが好きか、その世界に耽溺しているか、その生きざまはあまり伝わってはこない。
「アイドルファンのアイドルファンによるアイドルファンのための」DVDを称するならば、「ファン」というものをどう切り取っていくのか、は今後の課題のように思う。自分もアイドルライターの端くれとして、ファンを記述することに関してはこれまでいろいろと反省することもあった。そうした問題意識もありながら、今後の「NICE IDOL(FAN) MUST PURE!!!」の方向性に大いに期待し注目したいと思う。