モーニング娘。'14 コンサートツアー2014春 〜エヴォリューション〜

中野サンプラザモーニング娘。2014春ツアー「evolution」を観てきた。「evolution」というツアータイトルの通りのすばらしいコンサートでした。もう行けるところが限られているけど、もう一度行きたいと思わせるだけの、「強い」コンサートでした。感じたことを書いておこうと思います。


すでに「フォーメーションダンスが魅力」という打ち出しが一般層に一定の浸透をしたおかげなのか、アイドルファンの裾野が広がったせいか、中野サンプラザ後方は、2〜3割が女性客だった。
ダンスの途中でメンバーの並び方によって人文字を作るところを、上からの映像でスクリーンに映し出す手法は定番となった。「0」とか「ハート」とか「◇」とか「△」とか「×」とか、あるいは翼の形を作り出す。自分が以前見た時と違って、スクリーン上では人文字(たとえば「0」)を上からのアングルで映しながら、さらにその上になぞり重ねるように「0」という文字を映し出す。
これはおせっかいと言えばおせっかいで野暮とも言えるが、分かりやすい。よくモーニング娘。を知っている観客ばかりであれば野暮と言えるが、ここではこういう形を作っているんだと初めて知る観客には優しい。自分の感覚では、数千の規模の動員から、一万超えの動員まで増やす際に、確実にこの「分かりやすさ」が必要になってくる。現在万単位で動員ができるAKBとかももクロのライブは、(最近は行ってないけど)この分かりやすさについて入念に仕上げてくるという印象がある。
この「分かりやすさ」という要素とともに、今のアイドルシーンではファンの声をうまく取り込んでいく(ファン側の表現を取り入れる)ということが重要となっている。しかしハロプロはAKB等が巧妙にやってきたこの手法を、控えめに言っても2〜3年くらい遅れて後追いをしてきたという印象である。そして巧妙でもない。
ここで重要な点は、アイドルの人気は、アイドルという言葉がそこに収斂する人間の身体とそのパフォーマンスだけではなく、舞台装置全体あるいは売り出し方の戦略といったものの結果生まれるイメージの総体によるものであるということだ。だから、いかにパフォーマンスがよくても、それだけで人気を獲得するのは難しい。逆に言えば、パフォーマンスの良さは人気の絶対条件ではない。アイドルにはいろいろな魅力がありうるということだし、アイドル現場の楽しさは生身のアイドルの身体のみに依存するものではない。
ファン側の表現を取り入れるということでは、今回の現場では、たとえば開演前のスマイレージ武道館公演に関する映像で、「スマイレージ最高!」と叫ぶヲタのコールが取り入れられていたことが印象に残った。この程度のことでさえ、以前(おおよそ7〜10年前くらいをイメージしています)はなかったように思う。とにかく、以前は「ヲタ」的なものを公式が発信するものからは巧妙に排除しようという空気を感じていた。ともあれ、こうした現代アイドルの「基本」を、アイドルの「主導権」を失ってしばらくしてようやく少しずつ取り入れるようになった。
モーニング娘。が新たに人気を獲得する過程では、こうした現代アイドルの戦略を遅ればせながら取り入れたこと、そして取り入れながらも「フォーメーションダンス」という他のアイドルとの差別化をはっきりと打ち出せたことにあるだろう。


それはさておき、ライブの感想に戻ろう。


「HOW DO YOU LIKE JAPAN?」で、「米がうまいぜ」を鈴木香音が歌うことを支持したい。道重と同様、彼女も「残念」をキャラにして知名度を獲得しようとしている。そこに葛藤がないわけではないだろうが、ファンとしては応援するよりほかにない。キャラは離脱可能だから、無理があるなら続ける必要もない。
(以前のモーニング娘。の中での残念なキャラを挙げるなら圧倒的に保田圭だろうが、鈴木との違いは、芸人からいじられることを必要としているかどうかというところにあるように思う。保田は芸人(主に石橋貴明)からツッコまれ、罵倒されることで成立していたが、鈴木は自ら芸人化することで、キャラを自律的なものとしているように思える。)


最近の曲が中心となるライブ前半、そう言えば、なかなかPPPHが入らない、メンバーのコールが入らないということに気付く。曲に入れている隙間がない、入れる余地がない。めまぐるしくフォーメーションが変わるので、割と目が離せない。曲調にもよるが、コールとかましてやヲタ芸が入る隙がない。それはある意味ではファン文化が薄まるということであって、それは一般向けにはよい。


表情の力。最後列で見たので、スクリーンに大写しになる表情の方をよく見ていた。道重さんの表情がいつもしっかり決まっている。セリフ担当なんて言われることもあるが、表情担当ということだけでも十分なくらいに完璧に見える。「彼と一緒にお店がしたい」の道重の表情と声は絶品だ。譜久村、小田、鞘師の表情もいい。そうした中で、生田は抜かれた時の決め顔がどうもうまくないように見えてしまった。先日のGALETTeでも思ったが、表情の演技は重要だ。特に自分は困り顔に弱いということも再確認した。あと、「坊や」の時に頭をなでるしぐさをする譜久村、表情も含めて、うん。


ライブ中盤で、過去の曲をアレンジし直した(アップデイトした)ものをやるが、既存のダンスも変えていくのはいい。「恋レボ」も 「てるみーてるみー」のあたりの振りが変わってて、いつもの振りをやりたい、という気持ちと、新鮮という気持ちが複雑。一般層を楽しませるための措置として、ある程度昔のおなじみの曲をやるのは致し方ないとして、それをアップデイトすることで、観客全員を飽きさせないように、そして進化していることを見せるようにしている。


カップリングのメドレーで各メンバーに見せ場を作った上で、終盤はまた最近の曲を。現代アイドルの特徴として、「自己言及性」は外せないキーワードだが、モーニング娘。も2012年以降、シングル曲で自己言及的であると読み込むことができる楽曲を出してきた。「5作連続オリコン1位」とか、「最大の功労者である道重さゆみ卒業」とか、分かりやすい「物語」が明らかになっている今、それらの曲を聞くことで感慨が増すということは確かにある。


パフォーマンスを見せることに主眼を置き、MCを極力排する。それによって、アンコール後のメンバー一人一人のMCにメンバーの特徴が凝縮されて、胸に迫る。覚悟というか一本筋の通った強い意志を感じて、なんだか泣きそうになってしまった。なんかみんな、真面目。まーちゃん以外。鞘師は、小田とのデュエット曲で、昨年よりも自分のパフォーマンスに余裕が出てきたという進化を誇らしく語り、飯窪はニューヨーク公演に言及しながら、アイドル文化を海外に発信する気概を示した。


あ、会場にいて、彼女たちをネタ化する視点に立つことができない。メタ的な立場に立てない、と気づいた。パフォーマンスに、その強い意志に、ベタに魅了されなさい。ベタに魅了されなさい。そういうことになっている。これはこれで、心地いい。よい命令をされている。ネタ化できる部分って、まーちゃんと、MCのコーナーと、香音さんは最後列から見てもすぐわかる、ということくらいで、すごいベタ。ベタで全然いけちゃう。それを語弊のある言い方をすると「アイドルがアーティスト化する」みたいなことになるんだけど、そうじゃない。そういう言い方でごまかしちゃいけない。じゃあどういう言い方をすればいいのかな。


時空を超え 宇宙を超え」のよさは何だろう。何年かに一度、聞いていて泣きそうになる曲に出会う。「笑顔に涙」なんかがそうだった。取り立てて自分の身に引きつけて考えられる歌詞があるわけでもなく、ストレートに娘。の自己言及曲と読めるわけでもないのに、音楽の力で、泣きそうになる。久しぶりにアイドルのライブをしっかりと見て、語れないこと、言葉にできそうにもないことを久しぶりに経験して、でもそこから再スタートして、やっぱりアイドルについて今後も語っていきたいと思った。