キンブレがファン文化に与える影響について

キンブレがファン文化を変えた。最近、なかなかアイドル現場に行けなかったせいで、昨年秋までキンブレのことを知らなかった。知らない人向けに簡単に説明すると、キンブレは「キングブレード」の略。サイリウムは折って使うもので、使い捨てであるし、ペンライトも1色で発光も不十分だったように思う(色を変えられるものは今まであったのだろうか?)が、キンブレは10数色をスイッチ一つで切り替えられる。今までのサイリウムやペンライトよりも圧倒的に便利なグッズが、会場の光景を変えてしまった。


キングブレードX10II スモーク

キングブレードX10II スモーク


たとえば今日のハロプロのライブでは、工藤遥のソロコーナーが始まるや、会場はオレンジ一色に変わるし、そのあとスマイレージ勝田里奈のソロが始まるや、会場は一瞬にして黄色一色に染まるのだ。昨年秋に見た「プレゼント◆5」は男性グループアイドルをモチーフにした舞台で、ほとんど女性客の現場だったが、ここでもキンブレは必須アイテムだった。メンバーカラーにキンブレを光らせ、別のグループが登場したら、そのグループでの推しの色にすばやく切り替える。便利である。

キンブレは、DDにとって必須のアイテムである。もう少し言い方をかえれば、いろんなアイドルを楽しむということが(アイドル現場内においては)一般的な文化になった今にふさわしいグッズである。キンブレを実際に使うと、今までキンブレが開発されなかったのが不思議なくらい必要なアイテムに思われてくるが、現代のアイドル文化状況こそが要請した、タイムリーな商品なのかもしれない。

もう今のアイドルファンは、「タンポポ祭り」の感動の意味を知ることはないだろう。10年以上前、ハロプロの派生ユニット「タンポポ(飯田・矢口・石川・加護)」出演時に横浜アリーナが黄色一色のたんぽぽ畑になった。それは現メンバーでの「タンポポ」が無くなることを惜しむファンの総意によるものだった。自分はいままでのアイドルファン人生の中で、この時が一番泣いた。大量のサイリウムが消費され、ゴミになった。祭りにはそういう消費の側面が必要だとも思う。それだけのものを捧げる(無駄にする)ということに意味があるようにも思う。

そうした祭りを、キンブレはなくしてしまったのか。会場が一色に染まるという、現象としては同じことが起きている今日のハロコンだが、オレンジ一色の光景を目にしても、工藤遥が感動しているようには見えなかった。もうそれは当たり前の光景なのだ。つまり、祭りというのは現象が持つ意味の方に宿る。手軽に簡単に行えるようではかえっていけないのだ。キンブレは経済的にも、ゴミの問題を考えても、圧倒的に優れている。けれども、自分はサイリウム祭りのことを懐かしく思い出してしまう懐古厨の気持ちにもなる。

とは言え、ファン文化は常に新しいものを生み出していくことも間違いない。与えられたものに、環境に、ファンの身体は順応する。いくつかの可能性を考えてみよう。(以下の事例がもしもう現実のものとなっている現場があるなら、ぜひ教えて下さい。)

まずは、キンブレの色の切り替えをすばやく行う能力がファンに次第に身についていくだろう。というか、もうだいぶ身についてきているだろう。その切り替えの早さが、楽曲のそれぞれのメンバーのパートに合わせられるくらいに熟達したら、なんとパートごとに会場がメンバーカラー一色に染まるという驚くべき光景になる。見てみたい。(たぶんキンブレのスイッチ操作はそこまで速くできないと思うけど。)

あるいは、一色に染めるだけだった祭りに多様性が生まれる。エリアごとに色を分けるとか、やりようによっては人文字のように表現することも可能かもしれない。これは最近さんざん言っている観客の演者化でもある。または、アイドルの呼びかけによって会場に虹を生み出すとか。あ、虹をテーマにした曲で会場がきれいに七色に、とか、すごいいい。もうどこかこういう試みをやってそうだね。なるほど、ファンがキンブレを持っていることを前提に色を扱った楽曲を作る、ということが起きてくるかもしれない。(たとえばアイドル現場で「チューリップ」の歌を歌ったら、赤白黄色のところできれいに(あるいはちょっと遅れ気味に)会場が染まるのは想像に難くない。切り替え難しそうだけど。)

いずれにしても、ファンは与えられた条件のもとでファン文化を生み出していく。キンブレがいままでの祭りの感動をなくしてしまっても、新たな祭りを創り出していくだろう、たぶん。




参考:モーニング娘。オリジナルペンライト発売でキンブレX10II買った奴涙目w
http://helloprocanvas.ldblog.jp/archives/cat_1086607.html
動画8:35からグッズ紹介。





アイドル領域Vol.6

アイドル領域Vol.6

アイドル批評誌『アイドル領域Vol.6』
斧屋「ファン文化から考える、観客が演じるということ」も読んでね。