岡山〜四国 地方アイドル巡礼記 (高知アイドル編)

伊尾木洞での滞在が長引き、14時すぎの電車で高知駅へ向かうことになる。高知駅着は15:18。高知のアイドル「はちきんガールズ」のステージは15時〜15時半の予定。高知駅に着いて、急いで駅前のステージに向かう。ステージ前には40〜50くらい椅子が用意されていただろうか。客は30人弱。ほぼ親子連れやら老人。ほか通りすがりと見られる女子高生。普通に考えて、固定ファンがいないように見えた。非常にほのぼのとした現場。高知の平日昼に、アイドルファンらしき者はいなかったのだ。自分以外は。


はちきんガールズは6人いるが、1人は東京でミュージカルに出演しているということで、5人でのステージ。「私たち本気です」という文字の入ったTシャツを着て、元気に踊り、歌う。割と曲中動き回るはちきんガールズ。前方に座っている客とタッチしたり、楽しげ。そしてとにかく気合が入っていて、元気。
曲の合い間に、ステージを降りてきたはちきんガールズが、客にどこから来たのかを聞いて回る。あまり目立ちたくなかった自分はそこでは大人しくしていた。
2曲ほど聞いて、ステージが終了。その後ステージ右で物販をする模様。キーホルダーや写真やCDを売るらしい。メンバーはステージ終了後、自分たちのビラを配りに客席を回る。
メンバーのひとりに撮影いいですかと聞くと、話の流れで、後で全員一緒に撮影ということになる。物販が始まるが、CD等を購入する客は3人くらい。特にファンといったふうの人も見えない。自分も少し待って、せっかくなのでCDを買って握手。やたら強く握られ、勢いに押される。かわいいとかなんとかじゃなくて、元気。押しが強い。アイドルというよりむしろ、ただの普通のどこにでもいるような小中学生と握手をしているという背徳感みたいなものがすごい。地方アイドルめぐりをしていることを話す。さすがにひめキュンのことも知っている模様。
物販終了後、ステージ前で全員そろって撮影。お礼を言って会場を後にする。




昼食をとりに、高知駅北口の喫茶店「mimiusagi」へ。「トマトパフェ」(980円)を食べるのが目的だ。

生クリームとトマトアイス、周囲にトマトと白玉(ピンク・白・抹茶)。コーンフレークにバニラアイス。最下層にトマトゼリーという構成。これはよい構成だ。「○○パフェ」という時には、そのテーマとなるものが3つ以上の形態で表現されるのがよいと思っている。今回の場合、トマト果実そのものと、トマトアイスと、トマトゼリーである。特に最下層(第3層)で最後に、そのテーマとなるところのものが存在することは重要だ。これはタカノフルーツパーラーのマスクメロンパフェもそうだったし、西村フルーツパーラーの一連のフルーツパフェもそうだ。バニラアイスで舌をリセットした後で、最後の締めにもう一度。これで、食べたという満足感・充実感を得られるのだ。
高知駅の土産物屋でいろいろ物色するが、高知が全面的に坂本竜馬を押し出していることに半ば辟易する。そんなに全部が全部坂本竜馬にしなくても、と思う。これもまた、観光地が自らに向けられる視線を意識して、それに自覚的に振舞った結果ではあろうと思うが。
さあ、いよいよ残すはAKBチームK公演。高知駅のロッカーに荷物を置き、手ぶらで高知県民文化ホール(オレンジホール)に向かう。路面電車で一度乗り換えて、県庁前駅で降りる。



↑会場前風景



↑DIVA宣伝トラック



ちょうど10年前にモーニング娘。がそうであったように、客層は広い。地元の若者、小学生から社会人までが、広く会場に集まっている印象。いまはっきりと思い出せないが、方言というか、イントネーションの違いのようなものを感じる。先日のエントリでは地方のアイデンティティってなんだろう、ということを書いたのだが、この旅行全体で最も「地方」というものを感じたのは、実は建築物やら街並みやらではなくて、その地方にいる人々がしゃべる「言葉」ではなかったかと思う。言葉遣い、方言は、ビジネスの論理に取り込まれずに、比較的純粋に、無意識にその地方性を表出しているのではないか、そう感じた(もちろん方言を観光に取り込んでいく動きというのはあるだろうけれども)。


はじめに気になったのは、「家庭教師のトライ」が、アンケートに答えると消しゴムがもらえるとかで会場外でチラシを配っていたことだ。あるいは会場内にも立て看板の広告が置いてあった。



企業色強いなあと思ったが、そういえばハロプロでも昔ミュージカル会場でポッキー配ってたこともあったっけと思い出す。
ホール内に入る。キャパは1500程度。入ってきた客が、みな口々に「せまい!近い!」と言って興奮している。自分はそこまで近いとも思わなかったが。ただ後ろに従って段差のつくホールになっていて、見やすいのは確かだ。
チャイムが鳴って挨拶とご案内。客席のそこここから徐々に叫び声が起こり、「A−K−B−48!」の煽りを受けて開演。メンバー登場。熱狂的なファンが生み出す熱量というのもあるが、こうした「国民的」アイドルの場合、客層の広さが生む会場の独特な熱量というのがある。10年前、モーニング娘。のライブを見に、清里に行ったり「つま恋」に行ったり、石川県小松ドームに行ったりしたときに感じたものだ。
セットリストがどうなるかと思っていたが、シングル曲を多めに構成してくれていたので、知っていた曲が多く、楽しめた。せっかくなのでMIXが入る曲では自分も入れてみることにするが、どうしても正しく言えず、ようやく17曲目で成功することになる。
メンバーの自己紹介。この期に及んではっきり気づくが、自分はAKB出演のテレビを全く見ていないし、イベントにも行っていないので、メンバーのキャラクターを全く理解していない。板野友美が背が小さくてバカっぽいと感じたり、大島優子は雰囲気が亀井絵里元モーニング娘。)に似ていると思ったり、現場で見ていると感じることがあるものだと思った。こうした積み重ねがファン心理を創り上げていく。うむ、確かに現場が大事、というのは思う。それにしても、自分は大島優子の顔をうまく覚えられない。勝手な言い分だが、大島と前田敦子の差は、ひとつにはこの顔の覚えやすさ/にくさではないかと思っている。
MCの面白さは人それぞれ。むしろ予想よりも退屈した。多くのメンバーの自己紹介を楽しむには、客に求めるレスポンスの知識があったほうがやはりよい。
それからもう一つ気づくのは、MCにおいてしばしばメンバーが「(客席が)よく見えてますよー」と言うことだ。つまりファンの多くは、メンバーを見ると同時に、メンバーから見られることを志向する、と想定されている。



ライブの方に戻ろう。7曲目「逆転王子様」を聞いたとき、タンポポの「王子様と雪の夜」を思い出した。「見た目は悪いけど 中身は誠実で 素敵よ」という歌詞と、後者の「優しくて 見た目は へなちょこりんだけど」。作り方は一緒で、ファン(ヲタ)の承認欲求を満たす曲、と言ってしまうこともできる。ただつんくの歌詞の方が言葉そのもので遊ぶ(「へなちょこりん」)場合が多く、秋元康の方が言葉のチョイスは平凡で(「見た目は悪い」)、表現する内容が奇抜であったり過激であったり、あるいは煙に巻く感じ。いずれにせよ秋元の歌詞ではアイドルが歌うということを意識して、その自己言及性を込みで歌詞を作りこむという大まかな印象がある(この曲でも「王子様」が歌詞世界内でのキャラクターなのか、アイドルから見たファンのことなのか判然とさせず、ぼかしているような気がする。少なくともこの曲においては、歌詞の中で完結する物語は全く無い)。
その後も衣装がめまぐるしく変わりながら、ライブは続く。時に客席をいじったり、クイズコーナーで盛り上がったり。チームKの楽曲が続いた後のライブ後半は、またシングル曲中心で。「RIVER」「Beginner」はかっこいい。大勢が踊る、ステージ上を駆け巡るという図は見ていて面白い。多分ダンスがすばらしくうまいわけではない。正直、全員が全員かわいいとも全く思わない。それでも今AKBがトップアイドルであることは間違いない。一方でその認識こそがAKBをトップアイドルたらしめるのだが、ともかく客席の熱狂は今がAKBの時代であることを十分に示していた。
アンコールではチームKコールが起こる。それが20時15分くらいだった。20時37分の電車に乗らないと高速バスに間に合わない。帰りを気にしながらライブ空間にいることは愚かなことだとは思うが、アンコール4曲目が終わり、最後のあいさつの部分で会場を抜け、路面電車の駅へ走る。ところが、結局目的の電車を逃し一本後の電車になる。高知駅着が20時59分。高知駅北口から夜行バスが出るのが21時。駅のロッカーから荷物を取り出して、バスターミナルまでダッシュ。旅行の最後までギリギリの戦いを強いられる。バスターミナル中央に黄色のバスを発見し、なんとか間に合った。
バスで2泊、ホテル1泊。実質2日間をかけて岡山から四国をまわったが、充実した旅行であった。それまで強く意識していなかった地方(アイドル)というものを体験できたのは貴重であったと思う。